『生きるって、なに?死ぬって、なに?』
東京書店から出版です。
タイトルが、『生きるって、なに?死ぬって、なに?』、表紙には、
「12歳から考える 答えはないけど、大事なこと」
と書かれています。
オビには、
「様々な職業で活やくする知識人、著名人に、この難しい問題について聞いてみました。
私たちはこう思う、キミたちはどう思う?」
と書かれていて、十名の知識人、著名人の顔写真が並んでいるのです。
その中に、なんと私も入っているのであります。
どう考えても、私は、知識人ではありません。そんなに知識はないことは確かです。
著名人でもありません。
まあ、一人だけ例外ということでしょう。
この本のまえがきには、
「この本は、未来をよりよく生きるためのヒントになればという思いで、小学校高学年から中学生のみなさんに向けて作りました。
「生きる」「死ぬ」がなんなのかなんて、じつはだれにもわかりません。
しかし、だれもみないつか死ぬことは知っていて、それを知りつつ生きているので、生きるということを大事にしなくてはいけないと、本能的に感じています。なんだか不思議ですよね。
この本では、このだれにもわからないけれど、だれもが大事だと感じていることを、いっしょに考えていきたいと思います。」
と書かれていて、
「「生きる」「死ぬ」に疑問をもつときは、たいていは何かに迷ったときや、なやんだときだと思います。そんなときは、この本を開いてもらい、少しでもみなさんが元気になれることを祈っています。」
という思いで作られた本なのです。
幼少の頃から、人の死について考えて生きてきた私にとっては、とても嬉しい出版であります。
この本は、二部で構成されています。
前半は、十二の項目について書かれています。
①生きることにふと疑問を感じたとき
生きるってなんだろう?
②生きるのがめんどうだと感じたとき
なんとなくわずらわしいのは、なんでだろう?
③つらい気持ちからぬけ出せないとき
生きることからにげられるのかな?
④生きるをちょっとだけ深く考えたとき
「生きる」と「生きている」ってちがうの?
⑤生まれてきた理由を考えたとき
自分が生きていることに意味ってあるのかな?
⑥生きていくことに見通しをもちたくなったとき
これから先、生きているとどんなことがあるんだろう?
⑦生き方について考えたとき
「いい生き方」、「よく生きる」ってなんだろう?
⑧死について考えたとき
死を想像することって、むずかしくない?
⑨生きていく先に死があると考えたとき
どうせ死ぬのにがんばって生きる意味はあるの?
⑩死ぬときのことを考えたとき
自分の死は自分で決めていい?
⑪死に方について考えたとき
いい死に方ってあるのかな?
⑫死んだあとのことを考えたとき
死んだあとはどうなるのかな?
という実に簡単なようで、難しい問題について、小中学生でも分かるように、たくさんの分かりやすい絵とともに書かれています。
後半は、十名の知識人と著名人とその例外の私へのインタビューであります。
動物学者、声優・歌手、小説家、僧侶、小児科医、納棺師、哲学者、フォトジャーナリスト、宗教学者、助産師という十の職業の方が書かれています。
私は、僧侶の代表となっています。
有り難いことに、私の肩書きも「僧侶」のみなのです。
管長などというのが無いのが嬉しいことです。
インタビューの見出しをみてみますと、
動物学者の方は、
「動物の生き方を少し参考にすると、もっとラクに人間はいきられる」
小児科医の方は、
「健康でも病気でも、生きているだけでえらい!」
納棺師の方は、
「亡くなってもなお、人は人の中に生き続けている」
哲学者の方は、
「生きるとは自由になること」
助産師の方は、
「生まれてきたこと、生きてきたこと、すべてが奇跡なんだよ」
という具合になっています。
私はというと、
「「死ぬのがこわい」それでいい。まずは一日一日を大切に生きましょう」
となっています。
それぞれの知識人、著名人には、章の終わりに五つの質問がなされています。
それは、
今までの人生で一番“生きている!”と感じたときは?
毎日生きていくうえで大切にしていることは?
支えにしている言葉は?
なやんだときにすることは?
死んでしまう日がわかったら、その日は何をしますか?
という五つの質問であります。
それぞれの方が手短に答えてくれています。
因みに、私の答えだけを一部紹介します。
今までの人生で一番“生きている!”と感じたときは?
それは今です。
毎日生きていくうえで大切にしていることは?
「今日一日笑顔でいよう」という気持ちです。
支えにしている言葉は?
特に決まったものはありません。毎日新鮮な気持ちで新聞や本を読み、ピンときた言葉を大切にします。
なやんだときにすることは?
まずは姿勢と呼吸を調えて、体がしっかり生きていることを確かめます。
死んでしまう日がわかったら、その日は何をしますか?
「あなたに会いたい」というような人がいればいいのですが、そんな人もいませんので、私なりに思うことを答えておきました。
十人目、最後を飾るのは、助産師の方でした。
「命」が生まれることは奇跡でしかないという章です。
「「よくがんばって生まれてきたね。えらかったね。幸せになるんだよ」
出産に立ち合い、生まれたばかりの赤ちゃんの顔を見るたび、いつもこんなふうに声をかけています。
私は助産師として、今まで三千人ほどの出産に立ち合ってきました。」
という方の言葉には説得力があります。
「今でこそ医学の進歩で、出産のときに母親が亡くなる確率は減りましたが、それでもゼロではありません。出産はまさに命がけなのです。
母親は、出産前に十か月も、おなかの中に自分以外の命をかかえています。おなかの中でわが子が成長するにつれ、自分の体の自由がうばわれます。出産するときは激しい痛みにたえなくてはならないし、その痛みが何時間も続くことがあるのです。
そんなたいへんな思いをして、お母さんはみなさんを世に送りだしてくれました。
みなさんが無事に生まれてくること。そのためにお母さんもみなさん自身も、どれだけ多くの困難を乗りこえなければならなかったか。
命が生まれることって、まさに奇跡でしかないのです。みなさんが今、ここにいることの「すごさ」をちゃんと知ってほしい。命を軽く考えてはいけませんよ。」
という言葉には、目頭が熱くなります。
子ども向けに伝えるということは難しいことです。
それだけに、知識人、著名人と、例外の私も真剣に考え答えています。
小中学生に読んでもらいたいのはもちろんのこと、大人が読んでも勉強になります。
私も読んで感動しています。
子どもたちが、この本を手に取って読んでいて、大人からそんなことを考える暇があったら、勉強しろ、塾へ行けと叱られることのないように願います。
『生きるって、なに?死ぬって、なに?』、お勧めです。
横田南嶺