大摂心を終えて -食に思う-
調五事ということが『天台小止観』では説かれています。
以前、小欄でも紹介したことがあります。
調食=適度な食事をとること
調眠=適度な睡眠をとること
調身=身体を調えること
調息=呼吸を調えること
調心=心を調えること
の五つです。
現代の西洋医学を学ぶ青年や、東洋医学の方々とでこれからの「養生」について考える会(養生ルネッサンスJIN)では
養生の五本柱として、
一、食事
二、整体
三、呼吸
四、睡眠
五、思考
を揚げられています。
とてもよく似ているので、興味深く思います。
そこで、食を調えるには、どのようにして食べるかも大切だと思って、川野泰周師に教わった「マインドフルネスイーティング」を僧堂でも取り入れています。
マインドフルネスイーティングについては、九月十五日の小欄を参照ください。
そうしますと、一口一口、よく噛んで味わっていただくことができます。
僧堂の食事というと厳格な作法があって、素晴らしいものだと思いますものの、どうしても形式にとらわれがちであって、長いお経をあげて、細かな作法に則って給仕もするのですが、いざ食べる段になると、パッと口に入れて流し込んでしまうことがあるのです。
だいたいお坊さんには、早食いの方が多いと思います。
これは身体に良くないと分かっていてもなかなか改めることができませんでした。
この頃僧堂でもマインドフルネスイーティングは定着してきたので、今回は更に断食にも取り組んでみました。
この大摂心では、中日に一日だけ断食をしてみたのでした。
これは居士林主事の内田一道和尚が、二泊三日の断食を経験してきて、それがとても良かったというので、僧堂の雲水も何名かあらかじめ体験してもらってきました。
そのうえで、一日だけは完全に断食にして、次の日は「補食」とって、ごく少量のお粥や雑炊だけにします。
それから後は徐々に戻してゆくというのものです。
僧堂には色んな人が集まっていますから、長い断食では、体力的な問題も出てきますので、一日ならだいじょうぶだろうと思って取り入れてみました。
もちろん私自身も皆と一緒に行いました。
まず身体が軽くなり、頭がすっきりして、坐禅には集中しやすくなって、朝の目覚めもいいし、それから次の日の補食の一杯のお粥がおいしいこと、感動することばかりでした。
中には、少しからだがだるくなったりした人もいましたが、そういう時には無理をさせずに休ませて、行ったのでした。
そうして一日だけでも断食している時に、この世界には食事を満足に出来ない人がどれほどいるのか、この日本でも十分に食事の取れない子がいるのだということに思いを馳せると、慈悲の心が湧いてきます。
また、断食によってマインドフルネスイーティングも一層深まります。
食事五観文の意味もより一層深く味わえます。
今までも、僧堂の悪弊とも言える、素早く食べさすことを改めて、しっかりとした調食も身につけようと思って、今回の摂心ではじめて断食を取り入れてみたのでした。
なんといっても私自身が快適によく坐ることが出来て大満足でした。
横田南嶺