食べること
おかげさまで、この頃は大勢の皆さまにお聞きいただいて有り難いことです。感謝します。
その話の中で最後に、五つを調える(調五事)について話をしました。
五つを調えるとは、
『天台小止観』で説かれていることで、
調食=適度な食事をとること
調眠=適度な睡眠をとること
調身=身体を調えること
調息=呼吸を調えること
調心=心を調えること
の五つであります。
坐禅では、身体と呼吸と心を調えることを説いていますが、その前提となるのが、食を調え、睡眠を調えることです。
これが土台となって、その上で身体と呼吸と心を調えるのです。
諏訪中央病院に勤務されている青年医師の須田先生とは、懇意にさせていただいて、昨年には、諏訪中央病院にも講演に行き、今年もうかがう予定だったのですが、残念ながら今年はリモートでの講演となりました。
須田先生は、聖路加病院にもお勤めであった方で、病気の治療と共に、病気にならないようにする「養生」について、熱心に研究し、また広く多くの人に知ってもらおうと努力されています。
その須田先生の主催する講座にもお招きいただいたことがあります。
須田先生は、
養生の五本柱として、
一、食事
二、整体
三、呼吸
四、睡眠
五、思考
を揚げられています。
いろいろと研究された末に説かれている五つの養生の基本が、天台小止観で説かれいた調五事と共通しています。
順番こそ異なりますが、二の整体を身を調えること、五の思考を心を調えることと考えれば、ほぼ一致するのです。
「温故知新」ではありませんが、新しいと思われる事が、意外に古い教えにある場合があります。
とりわけ、食事を第一に揚げていることは共通しています。
やはり食べることが土台です。
何を食べるかということについて、いろんな情報があふれていますが、どう食べるかも大切だと思います。
禅僧で精神科医の川野泰周さんに、マインドフルイーティングを教わりました。
食べることに意識を集中するのです。
まず食べるもの、飲むものがあれば、すぐに口にせずに、じっくりと見つめて、色合い、形、香りを感じてみます。
これを口に入れたらどのような味わい、舌触り、香りがするのかを想像します。
口にするときには、その香りに集中します。そこからどんなイメージが浮かぶ想像します。
ゆっくりと最初の一口を口に入れます。
すぐに噛まずに、舌触りや味わいを感じます。
飲み物ですとすぐに飲み込まずに、口の中でしっかりと味わいます。
それからゆっくりと咀嚼します。
一嚼み、一嚼みごとに広がる味わいに注意を向けます。
十分味わったら、ゆっくりと飲み込みます。
食べ物が喉から食道、胃に入ってゆく様子も観察します。
そうして食べるというのです。
僧堂の食事は丁寧に行っています。しかし、長いお経をあげたり、作法が細かいのですが、実際に食べるのは、パッと口に中に入れて飲み込んでしまう場合が多いのです。
やはり、ゆっくり咀嚼して食べることが大切であります。
僧堂の修行で、よく噛まずに早く飲み込んで食べる習慣をつけてしまうとよくないと思って、この頃は、川野さんに教わったマインドフルイーティングを心がけるようにしています。
食を調えることには、どう食べるかも大切であります。
横田南嶺