開山忌
十月三日は開山忌。
開山無学祖元禅師(仏光国師)のご命日です。
本当は九月三日なのですが、一月遅れの十月に法要を勤めています。
管長という役職にありながらも、普段は、いたって平々凡々な修行僧として過ごしているつもりで、
管長などと意識することはほとんどないのです。
寺の参道を歩くにしても、今日のお寺を支えてくださっている拝観の方々に
真ん中を譲って、できるだけ隅っこを歩くようにしています。
ただ開山忌の時だけは、一年に一日管長らしく振る舞うのであります。
道具衣、九条袈裟という伝統の重たい衣装を着けて、
この日だけは参道の中央を、前後に侍者を並ばせて、
大傘という朱色の大きな傘をかざしてもらって歩くのであります。
普段やらないことをやるのは、やはり肩が凝るものです。
開山忌の行事は、仏殿や開山堂、舎利殿、大方丈などで行われますので、
その移動中は行列で歩きます。
最近は、お参りの方々が皆カメラマンになったのか、
カメラマンの方が集まっているのか、わかりませんが、
皆さん私たちにカメラを向けられます。
舎利殿の行事を終えて門をでると、多くの方々がカメラを構えていました。
寺の境内を、お坊さんが威儀を具して行列する姿は絵になるのでしょう。
しかしながら、写される方は、あまり心地よいものではありません。
そんな思いで歩いていると、一人の青年が、私たちに手を合わせてくれていました。
いい年配の方々が、みなスマホなどカメラを構える中で、
若者が一人手を合わせてくれていたのです。私も心の中で手を合わせていました。
そんな青年が一人でもいることは、うれしく有り難く頼もしく思ったものでした。
もっともこういう現象を引き起こしたのも、僧侶の怠慢によるところが大きいのだと慚愧します。
思わず手が合わさるような僧侶にならねばならないと反省します。
鎌倉彫の三橋鎌幽さんに新しく作っていただいた大香合も、
このたびの開山忌で初めて使わせていただきました。
参列してくださった方からは、朱色が映えてよかったと言ってくれていました。
一年に一度の大行事ですので、無事に終わるとホッといたします。
横田南嶺