西芳寺にお参りして感動
苔寺の正式の名前は西芳寺であります。
一度は、托鉢の途中で休息をさせてもらったのでした。
そのときに初めて苔寺のお庭を拝観して感動しました。
ただその折りは托鉢の休息でしたので、ゆっくり拝観する暇はありませんでした。
そこでもう一度拝観したいと思って、修行道場のお休みの時を利用してお参りさせてもらったのでした。
昭和の終わり頃のことであります。
苔寺のお庭を拝観した感動はずっと心の深いところに残っていました。
苔寺は、一般の拝観寺院のように、突然行って中に入れるわけではありません。
かつて西芳寺は、京都市内の寺院でも屈指の拝観寺院でありました。
しかし参道は狭く、また民家も近くて、渋滞による交通のマヒや騒音、ゴミの問題などがあっていろいろ対策を講じられたようです。
そこで西芳寺は、宗教的雰囲気を保ちながら心静かにお参りできるようにと、少人数の申し込み制になされたのでした。
1977年より往復はがきで事前に申し込みをするのであります。
最近になってインターネットからも申し込みができるようになっています。
それで、美しい苔のお庭と静寂な環境が保たれているのであります。
いつか西芳寺をもう一度お参りしてみたいとずっと心に思っていました。
しかしなかなかご縁がありませんでした。
それが数年前に、西芳寺の執事である藤田隆浩和尚からお葉書を頂戴したことからご縁が結ばれました。
西芳寺では、庭園を拝観するにあたり必ずお写経をするようになっています。
かつては般若心経の写経だったのですが、最近は延命十句観音経の写経になっています。
その写経の手引きの紙に、私の作成した延命十句観音和讃を掲載させてほしいという依頼でした。
こちらとしてはこんな有り難いことはありませんので、どうぞお使いくださいと返信したのでした。
今年の夏に、お盆の棚経に総代さんのお宅にお参りすると、その総代さんが最近西芳寺をお参りしたそうで、写経したら、私の延命十句観音和讃が書いていましたよと報告してくれたのでした。
有り難いことだと思っていますと、なんとその八月、都内のイス坐禅の会に、西芳寺の藤田和尚がご参加くださったのでした。
これには驚きました。
西芳寺のような素晴らしい環境にいらっしゃるのに、どうしてこんな都内の会議室の坐禅会に来たのですかとうかがったのでした。
私のYouTubeラジオ管長日記などもご覧いただいているようなのでした。
有り難いことでありました。
またちょうどその八月には、しばらくYouTubeラジオ管長日記で夢窓国師の事を書いていたのでした。
ちょうど苔寺のことも書いていたのでした。
そんな時に苔寺の方がお見えくださったのは不思議なご縁というほかありません。
こちらの坐禅会にお越しくださったからには、一度御礼をかねて西芳寺にお参りしたいと思い、手紙を書いたのでした。
私も一応一拝観者として申し込みの手続きをしました。
そこで上洛した日に合わせてお参りさせてもらったのでした。
有り難いことに、西芳寺に到着しますと、ただいまのご住職さまがわざわざ山門まで出迎えてくださいました。
そして西芳寺の執事長である藤田隆浩和尚が境内をご案内くださったのでした。
お庭に一歩入るや、まさに別世界でした。
修行僧の時にも感動しましたが、今回も一層深く感動しました。
しばし動けなくなるような感動でした。
こんな空間がまだこの世にあったのかと思うほどです。
初めてお参りしたときにもずいぶん広いお庭だと感じましたが、本当に広いお庭です。
しかも百二十種類もの様々な苔が広がっています。
私などはすぐにお掃除が大変だろうと思ってしまいます。
この頃は円覚寺でも境内が広いので、ブロワーなどの機械を使っています。
苔を痛めないためにはやはりブロワーを使っているのかと思ってうかがいますと、ブロワーは使わないのだそうです。
竹のホウキで掃いていますということでした。
そうしないと眼が届かないのだと仰っていました。
お庭に対するお心遣いが違うのだと感じ入りました。
池泉回遊式のお庭と上段の枯山水のお庭も拝観させていただきました。
指東庵には、夢窓国師のお像がお祀りされていてお経をあげさせていただきました。
感激しました。
西芳寺は夢窓国師のお庭が有名なのですが、夢窓国師が開創した寺ではなくもっと古いお寺なのです。
もともと聖徳太子の別荘があり、731年、行基菩薩が法相宗の寺として開山されたのでした。
実に千四百年の歴史なのであります。
古代、京の発展に寄与した秦氏の古墳があったらしく、その残っている遺跡も拝観させていただきました。
深い深い感動でした。
本来ならはじめに写経してからお庭を拝観するのですが、今回は特別に先にお庭を拝観させていただきました。
そのあとご本堂で延命十句観音経を写経いたしました。
たしかに私の延命十句観音和讃が書かれていました。
またなんと私の書いた『祈りの延命十句観音経』の本も販売してくださっていました。
職員の皆様にもご挨拶させていただきました。
更に有り難いことに別室でお抹茶をいただいて、藤田和尚と歓談させていただきました。
藤田和尚はまだ三十代とお若いのですが、御修行にも熱心でお寺のことも真剣にお考えになっておられて、お庭と共に藤田和尚のお人柄にも感動しました。
お見送りをいただいて有り難い西芳寺参拝でありました。
観音様と夢窓国師のご縁であります。
お導きいただいた思いでありました。
横田南嶺