鎌倉てらこや
『広辞苑』には、「寺子屋」として、「室町中期~明治初頭、武士・僧侶・神官・医者その他の有識者が主に庶民の子供を対象に開いた私設の教育機関。
読み・書き・算盤の初歩学習を行なった。寺。寺屋。手習塾。」
という解説があります。
かつてのお寺は、地域の教育の施設でもありました。
また戸籍を扱っていたので、役場の役割も果たしていました。
またお灸などの治療も行うことがあったので、医療にも関わっていました。
地域の方々のいろんな相談にも乗っていましたので、カウンセリングも行っていたと言えましょう。
また地域の方々が集まる公民館のような役割も担っていました。
いろんな役割を果たしていたので、かつてのお寺でありました。
それが、教育は学校で行うようになり、戸籍は実際の役所で扱うようになり、治療は病院になり、集会は公民館が作られて、お寺の役割はどんどん少なくなってゆきました。
いろんな相談があってもこの頃は、カウンセリングに行くようになりました。
かくしてお寺の仕事は、主に葬儀と法要のみが残っているというのが現状であります。
もっとも葬儀や法要というのも人生においてとても大事なものです。
また人と人とのつながりを維持するのにも重要な儀式であります。
ただ葬儀と法要のみとなると寂しい気もするものです。
鎌倉には、「鎌倉てらこや」というNPO法人がございます。
今から二十年前に早稲田大学教授の池田雅之先生と精神科医の森下一先生がおはじめになったものです。
どんなNPO法人かというと、
「てらこやの基本ヴィジョン」として、
「子ども・若者・大人の三世代をつなぎ家庭・学校・地域を結ぶ」ことであり、
具体的に、
「1) 地域の子どもたちが主体的に生き、活動できる拠点をつくり、 成熟した地域社会を創造する。
2) 子どもたちの魂を輝かせるために、 自然・歴史・伝統・文化・宗教的な環境の下で、子ども・若者 大人が共に遊び、学び合い、感動体験を培う。
3) 親たちは、子どもや若者と共に活動するなかで、より広い視野に立ち、自らを育むことを目指す。」
というのがその理念なのです。
「生きる力を育み、心を耕す」として、「てらこや七つのスピリッツ」があります。
それは
「本気」 何でも一所懸命やれば、心が通じる
「遊び」いのちの輝きを開花させる時間
「感動」明日を生きる原動力となる体験
「自立」 自らの可能性への気づきと行動
「信頼」 人を愛し、 自分を信じる力
「年輪」 世代を超えた知恵の連鎖
「複眼」 地域の人々・親・教師、友人、多様な眼差しが子どもを育てる
というものです。
スタッフは「早稲田大学、 横浜国立大学、 鎌倉女子大学、 明治学院大学をはじめ、全国各地の学生たち、 鎌倉青年会議所のメンバー、 市民ボランティアなど」なのであります。
そのただいま鎌倉てらこやの理事長をお務めなのが上江洲真さんです。
先日江ノ電新聞社の御依頼で、池田先生、上江洲さんとまじえて鼎談をさせてもらいました。
上江洲さんは、鎌倉てらこや発足当時から関わっておられます。
最初の時には、まだ早稲田大学の学生で、池田先生のゼミ生であったそうなのです。
それから二十年関わっておられる中心メンバーであります。
鎌倉てらこやではいろんな体験学習をなさっています。
そのひとつは陶芸体験で、鎌倉の陶芸家河村喜史先生に陶芸を教わっているのです。
それからみんなで朗読というのがあって、これは月に一度円覚寺の塔頭で開催されています。
それから自然や歴史をめぐり歩く鎌倉散策、海で行う運動会などがございます。
中心の活動には、年に一度の建長寺での合宿や光明寺での合宿もあります。
それから放課後サポート事業というのがあって、鎌倉市内の学童保育施設十六箇所に、放課後学生ボランティアの派遣を行っているのです。
鼎談の折にいただいた資料には「子どもたちの日常の放課後に、大学生のお兄さん・お姉さんが定期的に遊びに行くことで、元気がありあまっている子どもたちや、何をしていいかわからずにぼんやりしている子どもたちと、最高に楽しい放課後の時間を過ごせるように活動を行っています。」
と書かれています。
今ではなんと年間八〇〇回もの活動を行っているというのですから驚きです。
鼎談の折にもいい話を聞かせてもらいました。
ある学童保育施設に、どうにも言うことを聞かないし、手に負えない子どもがいたそうなのです。
それでも根気よく一対一で話をよく聞いてあげて、努力していくうちに、その子がすっかり変わっていて、まわりにもよく気配りのできる子になっていったというのであります。
何をどうしたのかと聞いてみると、ただ、この子は、根っこはぜったいに良い子だと信じて接していたということでした。
これはお寺にご縁をいただいていたので、どんな子にも、人には皆仏心があると信じることを教わっていたことも関わりがあるのではという話でした。
有り難いことだと思いました。
子どもたちに具わっている仏心を信じて、そのことに目覚めてもらう為の活動をするということは素晴らしいものです。
鎌倉てらこやの活動が改めて素晴らしいことだと思いました。
今後どういう方向でいくといいのか、色々と池田先生と話をしていて、食に注目したらどうかという話題になりました。
池田先生は、最近病気をなさって、ずいぶんお痩せになってしまわれた時期もあったのでした。
単に身体の悪いところを治すだけでなく、歯の治療や、自室のレイアウトを変えて気の流れをよくすることや、砂浜を素足で歩いたりして、自然のエネルギーに触れるなどいろんなことをなさってこられたそうです。
腸の状態を改善するための食事療法もなさったりして、食事にご関心をお持ちでありました。
子どもたちのことを考えると、食事の問題はとても大きなものです。
やはり昔から日本人が食べていた、ご飯とお味噌汁お漬物という食事がいいのだと思います。
お味噌も漬物も発酵食品です。
鎌倉てらこやの活動の素晴らしさを再認識して、更に食の大切さを訴えることができたらいいなと思ったことでした。
横田南嶺