上虚下実
椎名先生には、毎月お越しいただいています。
ただいま椎名先生は、東京の国立博物館で、ZEN呼吸の講座を開かれているとのことです。
海外の方に向けて英語で指導されているとのことであります。
今まで数百名に指導されてきて、姿勢がいいと感じたのは二名ほどだったと仰っていました。
一人は、海外の青年ですが、なんと流鏑馬をなさっているという方だそうです。
たしかに馬に乗って、しかも両手を離して弓を引くには、腰が安定しないととても無理でしょう。
もう一方はご婦人で、太極拳をなさっている方だそうであります。
それ以外は、今は姿勢はよくないというのです。
最近は、海外でも呼吸法が注目されているそうなのです。
ブリージングなどと言ったりするそうです。
ところが椎名先生の仰るには、身体の上半身にばかり力が入ってしまって、力んで呼吸することが多いらしく、やればやるほど苦しくなるという方もいるということでした。
何でも一所懸命にやろうとすることは尊いのですが、正しい方法でやらないと苦痛でしかありません。
呼吸などというのは元来誰に習うでもなく、自然と調った呼吸をしていたのです。
そして本当は、やればやるほど落ち着き、深い安らぎと喜びが感じられるはずなのです。
それには、なんといっても上虚下実の姿勢が大切なのです。
上虚下実とは上半身には余計な力みが抜けていて、下半身が充実している状態であります。
まずふだんの私たちの姿勢は、崩れてしまっている場合が多いと察します。
もともと赤ん坊の頃には、どっしりと坐れていたはずなのですが、最近ですと、パソコンやスマートホンを見ることが多い暮らしなので、その画面を見ようとしてどうしても首が前に傾いてしまいます。
首が前に傾くと、頭の重さがかなり重い負荷となります。
そのために首や肩に余計な力が入って、首と肩が凝ってきます。
頭や首が前にでますので、肋骨は後ろに傾きます。
これで内臓にも負担がかかってしまいます。
すると後傾している肋骨を支えようと、骨盤が前に傾きます。
それで腰の筋肉が緊張して凝ってしまうのです。
また太腿の前の筋肉にも負担がかかります。
かくして腰も辛い姿勢となってしまうのです。
姿勢が悪いということは、身体の一部分に負荷がかかるのではなく、全体のバランスを崩してしまうことになるのです。
首が傾いていると、気管も閉ざされて肺も圧迫されて、深い呼吸ができなくなります。
いつも身体にストレスがかかった状態となるのです。
よい姿勢はというと、立った姿を真横からみれば、頭頂、耳の付け根、肩峰(肩の付け根)、大転子 (大腿骨付け根の曲がった突起部位でもも横から触れられる骨)が一直線に並び、大地と垂直になった状態となります。
これが、重力に逆らわない自然な姿勢であります。
上虚下実の姿勢でもあります。
すなわち上半身は脱力してゆるみ、下半身はドッシリとしているのです。
椎名先生は、下半身が大きな木の幹のようにどっしりしていて、その上に上半身はふわりと乗っているだけだと仰っています。
また、頭も脊椎の上に紙風船のように優しく乗っているだけと説明してくれていました。
さてこの立った姿勢を調えることから始まりました。
どのようにして行うのかを、椎名先生との共著『ZEN呼吸ー「健康」は白隠さんから』から引用しましょう。
「まずは、両足を腰幅(肩幅ではありません!)に開いて、両足の人差し指が平行になるように立ちます。
足の向きが外側に開きがちな人が多いですが、人差し指は体の向きに対して垂直にします。」
ということから始まります。
大抵は足を開いて立ってしまいます。
そうすると、どこか筋肉が緊張してしまうと説明してくれていました。
人差し指をまっすぐにすると違和感があるのですが、これがいいのです。
「次に、膝をしっかりと曲げ、足裏全体をべたりと大地に着けます。
この時、膝が内側に入らないよう、膝頭の向きにも注意しましょう。
そこから頭頂を天に向かって引き上げ、膝がピンと張る手前でストップ。
常に膝は軽く緩んで、足裏全体に体重がのっている状態をキープします。」
というのです。
この膝が弛んだ状態が大切であります。
膝がピンと伸びてしまうと、緊張してしまうのです。
それから
「仙骨に手を当てます。
やはり中指の指先が仙骨の下部に当たるように、掌をぺたりと仙骨に沿わせます。
その状態で、お尻だけをプリッとヒップアップ(出っ尻に)させます。
わざと骨盤を前傾させるのですが、この時、上半身や膝は一緒に動かないで、骨盤だけが動くように気をつけましょう。
この動きが難しいという方は、両手で骨盤を抱え、骨盤だけを前に倒したり後ろに倒したりするのを、鏡を見ながら何度も繰り返してみましょう。必ずできるようになります。
鼻から静かに息を吐きながら、中指の指先(仙骨下部)を、テコのようにゆっくりと前に押し入れ、仙骨を立てます。
自然と下腹部(臍下)が締まったのを確認したら、仙骨に当てていた手をほどきます。」
という手順を踏んで、仙骨を立てるのです。
この仙骨を立てるのが、土台となります。
これだけで下腹部の充実した感じがあるものです。
次に、肋骨を真っ直ぐに立てるのですが、息を静かに鼻から吐きながら、ゆっくりとみぞおちを押し下げてゆくのです。
かくして土台がしっかりと安定するようになります。
そうしますと、呼吸は自然と静かになめらかになるものです。
安定した姿勢から、静かな呼吸になり、穏やかな心になってゆくのです。
そのあとは、『ZEN呼吸ー「健康」は白隠さんから』にも書かれている腰脚足心のストレッチを、絶えず気海丹田腰脚足心を意識しながら行いました。
途中で竹も使って身体をほぐして行いましたので、上半身はリラックスして、下半身がどっしりとした上虚下実を体感できたのでした。
横田南嶺