繋がる身体 – ヒモトレに学ぶ –
皆様のおかげで続けてこられました。
明日で千回となります。
先日は、バランストレーナーの小関勲先生にお越しいただいて、ヒモトレの講座を行っていただきました。
ヒモトレについては、あの武術研究家の甲野善紀先生も高く評価されていて、小関先生と甲野先生との共著もあります。
その本『ヒモトレ革命 繫がるカラダ 動けるカラダ』(日貿出版社)には、ヒモトレについて次のように分りやすく書かれています。
引用させてもらいます。
「トレーニング、と聞くと、「1日100回しなければならない!」とか、「ちゃんと正しく覚えないと!」というふうに、少し「構え」が必要なイメージがあるかもしれませんが、ヒモトレは、そういう“鍛える”ためのトレーニングではありません。
ただ、ヒモに体を任せて動いたり、ヒモを体に巻いたりして過ごすだけ、です。
体の偏りをいったん取り払って、体の〝ちょうどいい”ところを自分で味わうこと。
それがヒモトレのねらいつまり”トレーニング”というより、身体環境を整えるコンディショニング”と捉えていただけるといいかもしれません。」
というものです。
簡単にいうとヒモを身体にゆるく巻くだけなのです。
ただしそのヒモは、マルヒモで弾力性のあるものでないといけません。
そうかといってゴムのような伸び続けるのはよくなく、全く弾力性のないのもよくないのです。
4~6ミリくらいのがよくて、素材はアクリルでも綿でも絹でもよいのです。
分りやすい実験では、肩幅程度に脚を開いて両手を前に真っ直ぐ伸ばしたまま、ぐっと上げて、背中の方へ持ってゆきます。
するとだいたい両腕は肩を越えた辺りで、止まってしまいます。
耳を越えて更に背中の方にまでゆくのは稀です。
ヒモを肩幅くらいの輪っかにして手首に掛けます。
ピンと張って、その張りを保ったまま同じように両腕をあげてゆくと、さっきよりもずっと楽に背中の方にまで動いてゆきます。
修行僧たちも実験していて、驚くほど変化があるのが分りました。
おへそのあたりに巻くだけでも大きな違いがあります。
両手を手の平を上にしてへそのあたりの高さに置きます。
その手に相手が乗っかるようにして体重をかけますと、両手は押されてしまいます。
ところがおへそのあたりにゆるくヒモを巻いて行うと、上から抑えても押されないほど身体がしっかりするのです。
身体全体が繋がるのです。
ゆるくたすき掛けをするのも効果があります。
スライドで見せてもらって驚いた画像がありました。
年間に五百冊も読書をするという小学生の写真です。
なにもしなくても姿勢が実にいいのです。
腰を立てた素晴らしい姿勢です。
模範になるような姿勢なのです。
それがヒモをゆるやかに巻くだけで姿勢が変わります。
無理に姿勢をよくしている緊張がとれて、自然な腰になっているのです。
意識してよい姿勢を保とうとすると、どうしても腰が緊張してしまいます。
少し腰がそり気味になっていました。
それが実に自然に力の抜けた腰になっていて、これならば長時間の読書でも疲れないだろうと思いました。
余分な力が抜けているのです。
胡座をしてみると、身体は後ろに傾いてバランスを取ろうとします。
そこで膝の辺りにヒモを巻くと、それだけで足まで身体が繋がって安定するのです。
たったヒモ一本ゆるく巻くだけで、身体が繋がるのです。
ヒモトレは、人間だけでなく、動物にも効果があるそうで、年を取ってうまく歩けない犬も、タスキのようにヒモを巻くと、歩けるようになるという動画を見せてもらいました。
ヒモトレとトレーニングの違いを教えてくださいました。
この理念が禅の教えにも通じるのです。
トレーニングというと、強化する、大きくする、増やす、鍛えることを目指しています。
故意に脱力しようというのも同じです。
しかし、これらは、弱いものを強化しよう、小さいものを大きくしよう、足りないものを増やそうという概念です。
しかしヒモトレで目指すのは、あるもの、本来調っているものなのです。
無いものを足すのではなく、本来あるものですから、それをまず感受するのです。
まずやってみて感じることです。
それから観察することです。
何の評価もせずに観察するのです。
そうして観察すると発見があるのです。
それにはよい塩梅が必要だと小関先生は何度も説かれていました。
塩梅は人に教わるものではありません。
自分の身体で感じるものです。
そのようにヒモトレは、いわゆるトレーニングとは違って、頑張らない、我慢しない、結果を気にしないのです。
すべてもともと具わっているものだからです。
心地よさ、動きやすさを第一にしています。
そんなヒモトレでしかも大きな効果があるので、修行僧達も楽しそうに学んでいました。
今回は午前中にヒモトレを習い、午後からは長年小関先生がとりくんでいると言う韓氏意拳を少しだけ教わりました。
韓氏意拳というのは、私も全く始めてでした。
この意拳の特徴は、型がないこと、力を使わない、考えない、繰り返さない、リズムをとらない、イメージしないというのです。
これは実に難しいものでした。
私などは、ついいつの間にか、力を入れていたり、リズムをとってしまっています。
その度に直してもらいました。
いずれにしろ、身体が本来もっている繋がりを感じるものでありました。
身体はますます神秘であります。
講座を受けた翌朝、いつものように五体投地百八回を行う時にヒモを巻いて行うと、実に身体が軽く心地よく感じました。
手も足も背中や肩と全身が繋がっているからだと感じたのでした。
横田南嶺