天地と同根
初日にはスティーヴン・マーフィ重松先生、鎌田東二先生、サティッシュ・クマール先生など錚々たる方々が登壇されて、対談などがなされていました。
ももえさんのZenEatingも開催されていたのでした。
私はその日は、須磨寺の法話会でありましたので、二日目から参加させてもらいました。
Zen2.0には毎年ご参加されている藤田一照さんも二日目からのご参加でありました。
二日目のはじまりは、尺八の工藤煉山さんと、OBAというダンスの方の奉納演舞から始まりました。
工藤さんはいつもよくお目にかかっているのですが、このような場に立たれると、さすがと感じ入って尺八を拝聴しました。
OBAさんという方の踊りも又素晴らしいものでした。
そのあと、私は別の会場で布薩を行ったのでした。
布薩については昨日お話した通りであります。
布薩のあと、一照さんとSHIHOさんの「身と心が潤う坐禅入門」という体験のイベントがありました。
同時に、山田匡通先生と前野隆司先生との対談がありました。
私は、一照さんには申し訳なかったのですが、山田先生と前野先生の対談を拝聴させてもらっていました。
午後からは、茂木健一郎さんと一照さんとの対談があって、拝聴し、そのあと、クロージング・トークに出て、私も少し話をさせてもらってきたのでした。
山田先生というのは、ただいま株式会社イトーキの代表取締役会長でいらっしゃいます。
同時にまた、宗教法人三宝禅の管長でもいらっしゃるのです。
先日頂戴した山田先生の御高著『マインドフィットネス入門』の著者略歴には、次のように書かれています。
「1940年5月5日生 、 福島県出身。」
でありますから、もう八十三歳でいらっしゃいます。
とてもお元気であります。
「1964年慶応義塾大学経済学部卒業、同年三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。
その後、1969年ハーバード大学経営学部大学院卒業 (MBA取得)。
同行常務取締役、 東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行) 専務取締役等を経て、2002年三菱証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券) 代表取締役会長。
2004年東京急行電鉄常勤監査役。
2005年よりイトーキ取締役、 2007年に同社代表取締役会長に就任し現在に至る。
他にも(社)日本ファシリティマネジメント協会会長、日本オフィス家具協会副会長、 (医) こころとからだの元氣プラザ理事長、(財)東京顕微鏡院理事長。
(宗) 三宝禅管長」
と書かれています。
たいへんなご経歴の方であることが分ります。
お父様が山田耕雲老師でいらっしゃいます。
この方は安谷白雲老師の教えを受け継がれた老師で、『禅の正門』という名著がございます。
そのお父様のもとで修行された方であり、その教団を引き継がれているのです。
禅の修行も成し遂げ、それと同時に実業界でも活躍されている方なのであります。
前野先生との対談は、「自他一如がもたらす他人と組織の可能性」と題して行われました。
はじめに山田先生は、禅の原点は仏陀の発見した世界であり、それはけっして思想や哲学ではなく、事実を発見したのだと示されました。
その悟りの体験を「見性」と申します。
山田先生は、『マインドフィットネス入門』の中で、「見性」について次のようにはっきり説かれいてます。
「「見性」について解説することは極めて困難なのですが、敢えてひと言で表現をすれば「一人一人の人間の存在は、別々に存在しているように見えて、実は一つの存在である」ということを体験的に発見することと言えます。」
という通りなのです。
前野先生も「分離、分断の時代から融合、統合の時代へ」と示されていました。
印象的だったのは、かつては、大勢の前で「みんなひとつの世界」だと言葉に出していうと、頭がおかしいと思われていたけれども、自分は今も現役ではたらいているように決して頭がおかしいわけではない、今は堂々とこの真理を説くことができる、なぜなら今や科学の最先端がその事実を証明してくれているのだと説かれたことでした。
大森曹玄老師の『驢鞍橋講話』のなかにこんな言葉があります。
「合気道の植芝守平さんが、弟子たちに向かって、「お前たちはおれを倒すことはできない。なぜならおれは宇宙と一体になっているからだ」と言われたという。
弟子たちの中には、それを、「先生はあれさえ言わなければいいのに、ああいうことを言うから….。
あれは観念論だ」と批判する者もいたそうだけれども、私はそうは思わない。
あの人の晩年は、たしかに宇宙と一体になっている、如実にそういう体験をしていたに違いない。
だから無敵という。
一個人が立ち向かっても太刀打ちができない。宇宙の命がこの肉体を通じて現れる。」
と説かれているところがあります。
武道の世界でもかつては、「宇宙と一体」などというと、不審に思われていたことが分ります。
それが今や堂々と言える時代になったのだと深く感動しました。
山田先生は、御高著の中でご自身の見性体験について、
「その体験を言語で解説することは難しく、無理に解説しようとすると逆に誤解を生む可能性があるので、言語解説は避けたいところなのですが、敢えて言えば、自分と、物質も含めて他の存在との境目が、消滅するという体験です。」
と説かれています。
また
「この世界は別々ではなく、もともと一つ」という小見出しがあって、
「このような話をすると、何か特殊な人間に生まれ変わったかのような印象を与えてしまうかもしれませんが、人間が変わるわけではありません。
私は相変わらず私です。
ただ、世界というものの見え方が違ってくるのです。
それぞれ別々に存在しているように見えるこの世界が、実はもともと「一つの世界」であるということが見えてきます。」
というのです。
そんな話を聞かせてもらっていたものですから、最後のクロージングでは、今回のZen2.0では「加速の時代に水のごとく在る」というテーマだったので、水にちなんで話をしました。
「水のごとくあろうとするよりもお互いは水なのです。
既に水です。そして水の中にいます。
みんな同じ水ですが、その表面に薄い膜があって、お互いを自分と他人と隔てているように思っています。
でもみんな同じ水、まわりも水、境目もなにもないのです。
こんな話はなかなかできなかったのですが、今日では科学の世界でも証明され、実業界でも活躍されている山田会長も堂々と説かれていました。
みんな水です。
薄い膜で区別して、比べて争って傷つくようなことは愚かなことです。」
と話をしたのでした。
禅で説く「天地と同根、万物と一体」の世界なのです。
その中にお互いは生きているのです。
横田南嶺