イス坐禅
初めての試みであります。
坐禅会など今まで依頼されて行うことが多かったのですが、これは私の方から行おうと思って開催したものです。
お寺の本堂で、座布団の上で足を組んで坐禅をするというのではなく、あえてビルの会議室で、イスで坐禅をしようと思ったのでした。
数年前に、とある年配の方と話をしていて、考えさせられたことがありました。
その方はお若い頃には熱心に坐禅をなさった方なのですが、さすがに最近は膝が悪くて足を組むことができないというのでした。
そこで、私は、思わず「イスでも坐禅できますよ」と申し上げました。
すると、その方は、それが気に入らないというのです。
「イスでも」と言われると、どうしてもイスで坐ることが足を組むよりも一段低く見られているように感じるというのです。
それは、なるほどと思いました。
たしかに寺の坐禅会でもイスでも坐れるようにはなっています。
しかし、あくまでも座布団の上で足を組んで坐るのが主流であって、イスの方は隅っこで坐るようになっています。
あまり気にも留めていなかったのですが、言われてみると、イスで坐る方は、なんとなく肩身の狭い思いをするものです。
そこで、みんなイスで坐れば問題が無くなると思ったのでした。
そう思ったものの、実際にお寺で坐禅会となると、やはり大半の方は座布団の上で足を組んで坐るのが主流となっています。
いきなり、お寺でみんなイスで坐ろうというのは難しいものです。
そこで、敢えてお寺を出て都内の会議室を借りて、実際に多くの皆さんがはたらいていらっしゃる現場でイスの坐禅をしようと思ったのでした。
禅はどこでも、どんな形でもできるものです。
もっとも会場を借りますので、それなりの料金がかかります。
そこで坐禅会としても会費をいただくようにしました。
第一回を先日行いましたが、とても好評だったので、二回目も開催する予定であります。
私も今までいろんなことを学んで来ましたので、学んだことを皆様に還元するためにも、是非ともと思って行ったのでした。
坐禅をするのに形にとらわれることはないというのは、馬祖禅師の教えがもとになっています。
『馬祖の語録』に次の話が伝わっています。
入矢義高先生の現代語訳を引用させてもらいます。
「唐の開元年間、衡岳の伝法院で坐禅を修した時、譲和尚に出会った。
南岳懐譲は法器と知って問うた、
「大徳、坐禅してどうするつもりかな」。
師は答えた、「仏になるつもりです」。
すると懐譲は瓦を一枚取って、馬祖の庵の前で磨きはじめた。
師が云った、 「瓦を磨いてどうするのですか」。
懐譲が云った、「磨いて鏡にするのだ」。
師が云った、 「瓦を磨いて鏡になんぞなりますまい」。
懐譲が云った、 「瓦を磨いても鏡にならぬからには、坐禅しても仏になれるものか」。
師が云った、 「どうすればよろしいでしょうか」。
懐譲が云った、 「牛に車を引かせる時、車が進まないなら、車を打てばよいかな、牛を打てばよいかな」。
師は答えられなかった。
懐譲はまた云った、 「そなたはいったい坐禅を学ぶのかな、それとも坐仏を学ぶのかな。
もし坐禅を学ぶのであれば、禅というのは坐ることではない。
もし坐仏を学ぶのであれば、仏というのは定まった姿をもってはいない。
定着することのない法について、取捨選択をしてはならない。
そなたがもし坐仏すれば、それは仏を殺すことに他ならない。
もし坐るということにとらわれたら、その理法に到達したことにはならないのだ」。
師は懇切な教えを聞いて、あたかも醍醐を飲んだ思いをし、礼拝して問うた、「どのような心構えをすれば無相三昧に合致するでしょうか」。
懐譲は云った、 「そなたが心地法門を学ぶのは種をまくようなもの、私がこのかんどころを説いてやるのは天の恵みの雨のようなものだ。そなたの機縁はピタリと決まっておるから、きっと道を見て取るだろう」。 」
というものです。
「禅というのは坐ることではない。」
「仏というのは定まった姿をもってはいない。」
「もし坐るということにとらわれたら、その理法に到達したことにはならないのだ」
など、どれも禅の本質を伝えている言葉であります。
もっとも、畳の上で座布団を敷いて、その上で足を組んで坐るととても安定します。
この安定感というのは、イスの坐禅ではとても及びがたいものです。
長年の修行の結果編み出された坐の組み方は優れたものなのです。
その良さを否定するものではありませんが、そうでなければダメだと思うと執着になってしまいます。
イスでも十分に坐れるのです。
むしろ普段イスの暮らしをなさる方が圧倒的に多いのですから、そのイスで坐ることには大きな意味があります。
いろんなワークをまじえながら、イスの上で如何に腰を立てるか皆さんと共に実習したのでした。
ご関心のある方はどうぞご参加くださればと思います。
(【第2回 イス坐禅のすすめ】7/20(木) 18:30~ / 東京駅・日本橋駅)
人数も三十名ほどに限定していますので、質疑応答なども行いやすく、深く学ぶことができます。
横田南嶺