楽しい対談
とても楽しい対談でありました。
なんといってもソーヤー海さんご自身が毎日の暮らしをとても楽しんでいらっしゃることがよく伝わってくるのでした。
以前にもソーヤー海さんのことを書いたことがありましたが、
東京アーバンパーマカルチャー創始者であり、
1983年東京生まれ、 新潟、ハワイ、大阪、 カリフォルニア育ち。
カリフォルニア州立大学サンタクルーズ校で心理学、有機農法を実践的に学ばれた方です。
母親がうつ病になることなどから、大人への不信感が募り、怒りがたまって高校から不良になったのだと話していらっしゃいました。
そこでソーヤー海さんは、米軍に入ろうとされたのでした。
ところがアメリカに渡って、大学に入る数日前に、あの9,11,テロが起ったのでした。
テロを受けたアメリカは、平和の為といって逆に爆撃するようになりました。
ソーヤー海さんは米軍に興味がなくなってしまい、反戦運動に参加しました。
ところがこの反戦運動というのも内部をみると、暴力性があることに気がつきました。
平和と暴力、環境の問題などに取り組み、生きるって何だろう、死ぬって何だろうという疑問を持つようになったと言います。
一時期持続可能について教えたりもしていたらしいのですが、自分自身が家に帰ると持続可能ではないことに気づかされます。
ソーヤー海さんは先進国から抜けて、コスタリカのジャングルで暮らし始めたのでした。
そうしていろんな人とどのようにして暮らすか、人間だけでなく動物たちともどうやって暮らすかを学びました。
動物でも、人間は自分たちにとって都合のいいものを、ペットとしています。
しかし動物は人間の都合で生きているわけではありません。
ジャングルには軍隊蟻が襲ってくることがあるそうです。
これと戦うのはたいへんです。
しかし、戦わずにいると三時間で軍隊蟻は去ってゆくそうです。
家の中はきれいに掃除されているのだと話していました。
いやなものを排除するという考えから、関係性を柔軟にすることが大事だと指摘されていました。
ソーラーオーブンというのがあるそうです。
太陽の光で調理ができるのだそうです。
米も豆も炊けて、それでいて宇宙との繋がりを自覚できると仰っていました。
コンポストトイレというのを使うそうです。
人糞をそれにためて肥料にしてバナナの根元にまくそうです。
そうしてできたバナナをいただくのです。
まさに循環の世界です。
生も死も共に循環の中にあります。
人間と自然との循環をいちばん感じるのが呼吸だと仰っていました。
人間と自然とを区別するのがとても不自然であります。
息を吸うときには、酸素をいただくのです。
この酸素は世界の森と海のプランクトンからできているのです。
私たちは、都心のビルの中にいても呼吸しているということは、森と海とつながっているのです。
どうしたって孤立した存在になることはできないのだと仰っていました。
ソーヤー海さんの『みんなのちきゅうかたろぐ』には
「パーマカルチャーってなんだろう?
パーマカルチャーは、地球のうえでたのしく生きるためのくらしの工夫のこと。
これは世界中の先住民、農家の人、 動物や植物たちがやってきたことをまとめたものなんだ。」
とやさしく説かれています。
ただいまソーヤー海さんは千葉県のいすみ市で、このパーマカルチャーを実践されています。
平和の道を求める人が集まる道場だと仰っていました。
古民家を再生させて利用されているのです。
お料理も薪を用いて暮らしています。
水道がないらしく、井戸水と雨水でまかなっているのだそうです。
地球は先祖から受け継いでいるのではない、子どもたちから借りたものだというサン=テグジュペリの言葉を引用されていました。
楽しさへの誘いということを仰っていました。
とにかく「楽しく生きよう」、「楽しく人参を植えよう」と眼を輝かせて話をなさるのです。
今お寺は、人口の減少、過疎化、檀信徒の減少、墓じまいなどが進んでいて、地方のお寺も廃墟になりつつあるところもあるのです。
そんなことを思うとソーヤー海さんは廃墟を利用してそこからパーマカルチャーと新しい魅力あるものを立ち上げているのであります。
大いに考えさせられるのです。
ソーヤー海さんは、ベトナムの禅僧ティック・ナット・ハン師に学ばれていて、講演や対談の間にも三十分おきに、スマートフォンから鐘の音が鳴るようになさっていました。
その鐘の音がすると、いったん話でも何でも止って鐘の音に集中し自分の呼吸に立ち返るのです。
この立ち止まることが大切だと仰っていました。
ティック・ナット・ハン師の教えを日常の中で実践されていることも尊いと思いました。
ともあれソーヤー海さんは明るく楽しい方なのです。
私たちの呼吸が、海と森とに支えられていて、みんなひとつの家族であり、お互いは生きているだけで十分なんだと笑顔で語ってくださると、こちらまで幸せな気持ちになりました。
こういう方に接すると、まだまだ今の世の中に明るい希望を感じるものです。
午後二時から午後五時まで三時間にわたる講演と対談そして質疑応答でありましたが、楽しく一瞬のうちに終わったように感じました。
横田南嶺