よき人との出会い
毎日新聞の日曜くらぶに連載されている海原純子先生の「新・心のサプリ」を読んで深く反省したのでした。
四月十六日の毎日新聞でした。
「今年の桜」という題で書かれていました。
「桜前線が北上を続けている。各地でお花見を楽しむ人の姿がテレビのニュースで報道されるたびに、ああやっと春が来たんだな、という気持ちになる。」
という書き出しです。
私も同様です。その日も岐阜県揖斐川の大興寺様まで法話に出掛ける予定でした。
世の中は、もうすっかりコロナの前に近い状況に戻っています。
うれしくなるものです。
しかし、海原先生は、
「ただ、そうした楽しい集まりを見ていると、コロナ禍の3年余りを乗り越えることができなかった人がいることを思い出して、複雑な思いになることがある。」
と書かれています。
どういうことかというと、
「コロナ禍が始まったころ、まだ新型コロナウイルスについての研究が進まずウイルスの正体が不明で、治療法も確立されておらずワクチンもないころウイルスに感染して亡くなった方がいたことを思い出してしまう。
病院が患者を受け入れられず、新型コロナ以外の病気が悪化して治療を受けられずに命を落とした方もいた。予定していた手術が延期になり、病気が悪化した人もいた。
病院勤務の医療関係者は、コロナ禍の間、外食はもちろんほぼすべての外の集まりが禁止になっていた。中にはストレスで燃え尽きた看護師さんもいた。
ワクチン接種をするか、しないか、マスクをするか、しないか、という対立が起きて人間関係の破綻をきたした人たちもいた。」
というのであります。
その通りなのです。
華やかに桜が咲くかげで、涙を流す方もいらっしゃることを忘れてはならないのであります。
海原先生の記事を拝読して大いに反省したのでした。
コロナ禍で、お店をたたまざるを得ない方もいらっしゃいました。
大切なお身内を亡くされた方もいらっしゃるのです。
先日も、鮫島純子先生と対談をする企画がございました。
行徳哲男先生と鮫島先生と三人で鼎談を行う予定だったのでした。
鮫島先生のことはかつてご紹介したこともあります。
四年ほど前に、この管長日記に、
「最近、渋澤栄一翁の孫にあたる鮫島純子さんという方から「想いの習慣」ということを学びました。
つらいことも腹が立つこともすべて感謝で受け止める「想いの習慣」を身につけることが大切だと教わりました。」
と書いています。
そして、
「鮫島さんは、「うまくいかないことがあっても、自分の向上に必要な応用問題と受け止め、憎い相手、意地悪と感じられる相手こそ自分をレベルアップさせてくれる大事な存在と受け止めて、楽しく感謝するのだ」と仰っていました。
九十七歳の今もお元気で活躍されていらっしゃるのですが、
その秘訣はそんな「想いの習慣」によるのかなと思いました。」
と書いているのです。
初めてお目にかかった時には、そのお元気なお姿に驚きました。
まず渋澤栄一翁の御孫さんであることに驚いたのでした。
歴史上の自分だと思っていた方の御孫さんに会えたのです。
当時九十七歳でしたが、とてもお元気で会場にもお一人でお見えになっていました。
私が、お伴の方はいらっしゃらないのですかと聞くと、
「誰かについてきてもらうと、先様にご負担をかけますので、一人で行くようにしています」と答えてくださいました。
そして昨年八月実践人の家全国研修大会の講師に招かれた時にも、鮫島先生も講師のお一人としてお越しになっていました。
研修会は二日間にわたっての開催で私は初日の講師であり、鮫島先生は、二日目の講師でいらっしゃいましたが、なんと初日の私の講義もわざわざ聴講にお越しくださっていて驚いたのでした。
当時百歳、姿勢もよろしく、講演も立ったままで少しも衰えを感じさせないのでした。
世の中には素晴らしい方がいらっしゃるものだと思っていたところ、鮫島先生を交えた鼎談の企画をいただいて、またお目にかかれることを楽しみにしていたのでした。
しかしながら、今年の一月、あれほどお元気であった鮫島先生はお亡くなりになってしまったのでした。
コロナ感染が原因であったとうかがいました。
鼎談はどうなるのかと思っていましたが、予定通り行われました。
ただし、会場では行徳先生と私と二人の対談であります。
鮫島先生は、ご生前のビデオでご参加くださったのでした。
ビデオでは、百歳の時のご講演が放映されました。
これもやはり立ったままで朗々としたお声で講演なさっていました。
聴いていて感動しました。
感染症にかかることがなければまだまだお元気だったかと思うと悔やまれてなりません。
わずかのご縁でしかない私でさえそんな思いになりますので、お身内の方の悲しみを思うと察するにあまりあります。
会場には鮫島先生のご子息のお嫁さんがお見えになってくれていました。
会の終わった後に、主催者の方から鮫島先生が昨年出版された『100歳の幸せなひとり暮らし』という本を頂戴しました。
この本は「穏やかな心と健康を保つ100のヒント」が書かれています。
その中に「常に姿勢を意識する」という項目がありました。
引用させてもらいます。
「姿勢が良いのはとても大事だと、今つくづくそのことを実感しています。
私が姿勢を意識するようになったのは、荘先生と出会ってからですから、50年ほど前です。そのおかげで、100歳の今日まで背中が丸くならずに済みました。」
と書かれています。
荘先生というのは、荘淑旂先生といって台湾の漢方医の方です。
更に鮫島先生は、
「散歩をするときも、背筋を伸ばして行えば健康への効果は大きいでしょう。
家の中でも、たとえばテレビを観るときも、編み物をするときも、常に姿勢のことを意識し、正しています。
街に出かけると、ショーウインドウを見て姿勢を正し、エレベーターでは壁に頭、腰をつけて気がつくたびに骨盤を立て直しています。
慣れるとピンとしていないと気持ちが悪くなるようになりました。
そのおかげもあって、講演会でも1時間半以上、立ったままお話しすることができています。」
と書かれているのです。
やはり普段の心がけがよい姿勢を作るのです。
そしてよい姿勢が、明るい心を作ってゆくのだと学びました。
よき人に出会うということは、この上ない幸せであります。
よき人に出会うご縁をいただいたことに感謝し、鮫島先生のご冥福をお祈りするのであります。
横田南嶺