いかなる営みも禅
この本は何度も読んだ本ですが、改めて皆で読んでいると、いろいろと再確認できるものであります。
わたしたちが今学んでいる禅は馬祖禅師の教えがもとになっています。
その馬祖の禅を小川先生は、次のようにまとめてくれています。
(1) 「即心是仏」、
(2) 「作用即性」、
(3) 「平常無事」の三点にまとめることができます。
そして小川先生は、「これらは実際にはひとつの考えです」と仰せになっています。
「すなわち、自己の心が仏であるから、活き身の自己の感覚・動作はすべてそのまま仏作仏行にほかならず、したがって、ことさら聖なる価値を求める修行などはやめて、ただ「平常」「無事」でいるのがよい、と。」
ということになるのです。
自己の心が仏なのであるから、自身の営為はすべてそのまま仏作仏行にほかならないというのです。
如何なる営みもみな仏の行いなのであります。
椎名由紀先生と出版した書物は、『ZEN呼吸』でありました。
またももえさんが上梓された本は、『食べる瞑想 Zen Eatingのすすめ』であります。
呼吸にも食事にも「Zen]の文字が着くのであります。
これも馬祖禅からみれば、いかなる営みも仏作仏行なので、呼吸も食事もみな禅であると言えましょう。
あれも「Zen]、これも「Zen]なのであります。
そしてこの度、知人の宍戸幹央さんが、『マーケティングZEN』という本を上梓されました。
宍戸さんと、田中森士(しんじ)さんとの共著であります。
オビには、「禅の教えに学ぶ、日本初のマーケティング書 内面の声を聞こう。事業をシンプルにし、個と全体を調和させよう。そうすれば、自分のつとめが見えてくる」と書かれています。
「マーケティングZEN導入のステップ
1、己を見つめる
2、手放してビジネスモデルをスリムにする
3、ビジネスの適切なサイズを探す
4、マーケティング施策を絞る
5、顧客との関係性を整える
という言葉も見えます。
宍戸さんというのはどういう人かというと、本書にある著者略歴には、
「鎌倉マインドフルネス・ラボ株式会社 代表取締役。
一般社団法人 ZEN2.0 共同代表理事。
学生時代より仏教などの人間の意識に関する古来からの叡智と量子力学などのサイエンスとの融合に興味を持ち、 個人的探求を続ける。
東京大学工学部物理工学科卒。同大学院修了後、日本IBMを経てアルーの創業期に参画。
講師部門の立ち上げ責任者として企業の人材育成に幅広く関わる。
その後、鎌倉マインドフルネス・ラボを創業し、 禅の精神やマインドフルネスを企業経営、 組織開発、人材育成に活かす企業研修を展開。
禅とマインドフルネスの国際フォーラム 「Zen2.0」 を共同代表として立ち上げ、 毎年鎌倉の建長寺にて開催。」
という方なのであります。
私が 「Zen2.0」に登壇した折にもお世話になりました。
今も修行道場の布薩に参加されているのであります。
それにしても、マーケティングにもZENとは、節操がないように思われるかもしれません。
しかしながら、かつて『MARKETING HORIZON』という冊子で、2021年に「特集:禅に学ぶ」という企画があったときに私も取材を受けたことがありました。
その折に、吉田 就彦(よしだ なりひこ)さんとご縁をいただきました。
吉田さんは、(株)ヒットコンテンツ研究所の代表取締役社長であり、デジタルハリウッド大学大学院教授、コンテンツ学会理事、日本マーケティングサイエンス学会正会員という方であります。
どういうわけか話が合って、なんと吉田就彦デジタルハリウッド大学大学院教授退任記念最終講義には、「ヒット学~禅に学ぶヒット法則with臨済宗円覚寺派管長横田南嶺老師」として対談もさせてもらったのでした。
その頃に、このマーケティングやヒット学などにも触れたのでした。
宍戸さんは、藤田一照さんとも親しくされています。
本書にも一照さんのことが書かれています。
「禅僧の藤田一照は、この世で起こるすべての問題の原因は、私たちが自己の正体を見失って右往左往しているところにあると指摘する。
自己の正体を見失えば、自己の幻影を追いかけてさまよい歩いてしまう。
藤田が言うに、坐禅とは、くつろぐことそのものだ。
目的意識を持たずに坐禅すれば、自然なくつろぎがいつの間にか訪れる。
自分のつとめとも自然に出合うことができる。」
というのです。
私が宍戸さんに紹介したお店、糀カフェ 「sawvi (そうび)」も紹介されています。
本書では「糀を使用したドリンクメニューに加え、大豆コロッケや鶏の唐揚げといった料理を提供する。
優しい味わいで、 体じゅうに染み渡る。」
と書かれています。
このお店はとても分かりにくいところにあるのが特徴です。
そのことについて、本書では
「寺坂は立地について、「右から左に物を流すだけ)の仕事はしたくなかった。
だからあえてここに店を構えた」と説明する。
仮に路面店だった場合、「一見さん」がひっきりなしに訪れていたであろう。
分かりやすい立地は、それだけで集客を後押しする。
一方で、一人ひとりに向き合う時間は全く取れず、ただ料理や物を売る仕事となってしまうリスクがある。
売り上げは伸びるかもしれないが、一方で店の目的がぼやけてしまう。
このことを懸念した寺坂は、あえて知っている人しか訪れないような立地を選んだ。
結果、お店のコンセプトや目的、プロダクトについてじっくり説明できる時間を確保できた。
この姿勢はリピーター獲得につながり、結果的に安定した経営が実現した。
店のパーパスについて、寺坂は「糀文化を継承すること」と言い切る。
事実、飲食や物販だけでなく、糀文化を伝えるための少人数制のワークショップを開催している。
味噌づくりと甘糀づくりがあり、参加者から好評を博している」
と書かれています。
私が宍戸さんに紹介してよかったと思いました。
本書の終わりには、宍戸さんの心を調える朝の習慣が書かれています。
「宍戸は、毎朝自宅の和室で坐禅を組む。
坐禅は型が重要である。
正しい姿勢を取れるよう必ず坐蒲を使用する。
手順はこうだ。 坐蒲の上で足を組んだら、ゆっくりと背伸びをして背中と周りの筋肉をほぐしていく。
腰骨を立てる。 背骨の一つひとつを積み上げていく。
背骨だけで重たい頭蓋骨を支える。 一番楽な姿勢となる。
ゆっくりと呼吸に意識を向けていく。
まずは鼻から吐ききる。ゆっくりと間を持って鼻から吸っていく。
吐く時は贈り物を地球に届けるイメージを、吸う時は地球からの贈り物を受け取るイメージを持つ。
呼吸が整ったら、体の感覚に意識を向ける。
体を観察していく。
身体感覚への気づきを得る。
雑念がわいてきたら、再び呼吸に意識を向ける。
今ここ、今あることを意識する。
だんだん自分という存在を拡張させていく。
周囲と溶け合っていく。
ただただ、ある。」
というものです。
マーケティングにZENなんてと思うかもしれませんが、如何なる営みも禅に通じますので、いろいろと学ぶところがあります。
横田南嶺