出家的に生きる
『続 日々の閑言集』であります。
服部さんとのご縁は、佐々木閑先生の動画からでした。
佐々木先生の仏教講義の動画は、私もいつも勉強させていただいているものです。
昨年の一月六日に、佐々木先生が、いつものYouTube動画で「出家的に生きる人」と題して、書家であり詩人でもある服部潤さんのことを紹介なさっていました。
その概要欄には、
「世俗の価値観から離れて独自の道を歩むというのは、覚悟がいる厳しい生き方です。
しかしそれこそが、釈迦が私たちに示した出家の道です。
現代社会においても、出家者として生きておられる方は大勢おられます。
今回は、私が敬愛する書家であり詩人でもある服部潤氏をご紹介します。」
と書かれています。
服部さんは、本書の著者紹介によると、一九七三年宮崎県のお生まれです。
上京して職を転々としながらも、少年期に唯一誉められた経験を持つ書道を再開されたそうです。
二〇〇三年「日本書道教育学会」師範を取得後、宮崎に帰郷。
そして二〇〇五年には、
「以前より親しんでいた詩や哲学の世界を経て、禅の道への関心が深まり、禅寺に通い、坐禅や説法を通じて禅語や自作の詩など書と絵を合わせた作品の創作を始める。書体も従来の書道から我流となる。」
となったそうなのです。
日々の思いを綴った実にユーモアあふれる、それでいて鋭い言葉と温かみのある絵を描かれた作品集が『日々の閑言集』でありました。
これが二〇一九年に発行されています。
昨年佐々木先生が、服部さんの素晴らしい生き方について紹介されていたのを拝見して、私も服部さんに手紙を書いて出したのでした。
そして素晴らしい色紙を頂戴したのでした。
そのことは二〇二二年二月一七日のラジオ管長日記第四〇七回 「これでいいのか」に書いています。
今回更に、『続 日々の閑言集』を出版されたのでした。
この本の巻頭には、服部さんが師事されている曹洞宗の帝釈寺住職田中慎二和尚さまの「発刊に寄せて」と、佐々木閑先生が讃辞を書かれています。
佐々木先生は、そのなかで
「服部さんの作品も拝見するようになって、そこに内在する感性の純粋さ、表現力の強さ、そして人生観の深さに惹かれていきました。
『日々の閑言集』第一集を送っていただいた時は、面白くて楽しくて、「これはまるごと、ブッダの世界だなあ」と感激し、何度も読み返し、大勢の周りの人たちにも勧めました。
ことさら仏教の教えを取り上げて語るわけでもなく、日常の細かい事柄を「おかしみ」を交えて描いているだけなのに、そこにブッの世界観が見えてくるのは、服部さんご自身が出家的に生きておられる証でしょう。」
と讃えられています。
今回も深く考えさせられる言葉が満載であります。
「絆」と大きく書いて、「ほだし」とルビをつけた作品がありました。
「絆」の下には、「手かせ、足かせ」「自由を束縛するもの」と書かれています。
「ほだし」というのは、『広辞苑』によると、
「①馬の脚などをつなぐなわ。
②足かせや手かせ。
③自由を束縛するもの。」
と書かれていますので、服部さんの書かれる通りなのであります。
本書の終わりの方には、青い空に白い雲が浮かんでいる絵が描かれていて、その下に
「真の絆というのはおそらく美辞の掛け合いなどでなく 空の青さが雲の白さを雲の白さが空の青さを黙って引き立て合うということ」と書かれています。
空も雲も無心です。
何の作為もなくお互いを引き立てているのであります。
いくつかのラベルの絵が描いていて、その上に
「人間はね 商品と違ってね 中身の詳細を 正確に開示する 義務は ありませんから ラベルには 何とでも記せます」と書かれています。
ラベルの絵には、「優しい私」「誠実な私」「お茶目な私」と書かれています。
それからお酒の瓶を描かれた絵に、
お客様へのお願いとして「こちらの商品は、煩悩が混ざりますと、有害な誤謬をきたし、非常に危険ですので、聖人のお客様に限りご購入頂いております。大変申し訳ありませんが、凡人のお客様のお買い上げはご遠慮下さい」と書かれています。
絵に描かれた一升瓶のラベルには、「しぼりたて 使命感」とか「原液 正義感」と書かれています。
使命感も正義感も尊いものですが、そこに我欲が混じるととても危険になるということです。
「やらなきゃよかったことは やらなきゃ分からなかったこと」という言葉にも心惹かれました。
これは禅の教えにも深く通じます。
「つらつらおもんみるに『そのままの君でいいんだよ』
何ちゅう無責任でおっとろしい言葉」
という言葉もございます。
気をつけないといけません。
送っていただいた本には、素晴らしいお手紙が添えられていました。
筆で書かれているのはもちろんのことですが、紙に罫線もご自身で引かれている、心のこもったお手紙であります。
なんでも私の「管長日記と呼吸瞑想」もお聴き下さっているとのことで有り難く感謝しました。
世間にありながら、出家的に生きていて、ひとつひとつ丁寧にお仕事をなさっている服部さんの手紙や書籍を拝見して、私は諸事に追われて暮らす自分自身を深く反省したのでした。
横田南嶺