『半分、減らす。』
タイトルが『半分、減らす。』なのであります。
カバーには、「1/2の心がけで、人生はもっと良くなる」と書かれています。
更に帯には、「物、消費、情報、仕事…より少なく、より豊かに。」
医師で禅僧の著者が指南する、最良の「シンプル生活術」」と書かれています。
またカバーの見返しには、
「半分、減らす」「1/2を心がける」と
驚くほど毎日がすっきりする。
ストレスも減る。生産性が上がる。
まず、みのまわりの物を片づけることから。
食事の量や、スマホの使い方も見直そう。」
と書かれいます。
大体、タイトル、カバー、帯に書かれいることでかなりのことがわかります。
更に本を開くといちばん始め、目次の前に、川野さんの言葉が書かれていました。
「物も、食事も、消費も、情報も、仕事もー
いまより「半分」に減らしてみる。
1/2を心がけてみる。
そうすれば、驚くほど人生が輝きだす。
より少なく、より豊かに暮らすための、
「シンプル生活術」をご提案します」
と書かれています。
さらに目次はというと、
序章 1/2を心がけよう
一章、「物」を半分減らす。
二章、「食事」を半分減らす。
三章、「消費」を半分減らす。
四章、「情報」を半分減らす。
五章、「仕事」を半分減らす。
というものなのです。
これだけみても、本書で何を説こうとされているのか、だいたいわかってきます。
そして「ついやりすぎてしまう行動」に歯止めをかけて、「ほどほどを意識した考え方と行動を心身に落としこむことで、自らの健康を守り、同時により満たされた、より豊かな人生を実現する」
ということを本書が目指していると書かれています。
これは「中道」ということだろうと思っていると、やはり、
「本書のテーマ「半分、減らす」の実践は、この「中道の精神」を、私たちの等身大の暮らしのなかで体現してゆくための提案なのです」
と書かれていました。
読んでいると、「地位財」「非地位財」という言葉が目につきました。
これは、幸福学を研究されている慶応大学の前野隆司先生が用いられたことだそうです。
「地位財」とは、所得、財産、社会的地位、物的財など、「周囲と比較することで満足を得られる財」のことだというのです。
一方、「非地位財」は、「他者との比較によってではなく、自らが主体となって幸福を感じることのできる財」を意味するのだそうです。
この「非地位財」という言葉をみて、私は臨済禅師の説かれた「無位の真人」を思い起こしました。
臨済禅師は、この身に地位・名誉・財産・学歴・男女などに汚されることのない素晴らしい人間性の具わっていると説かれました。
このことに気がついていないから、外に向かって求めようとしてしまうのです。
外に向かって求めるというのが迷いだと説かれているのですが、外に向かって求める対象というのは、この半分に減らすべきと説かれる「物」「食事」「消費」「情報」「仕事」に当たるのであろうかと思いました。
それから、食事を半分減らすという一章に興味を持ちました。
私は常々体の不調の多くは食べ過ぎから、心の病の多くは考えすぎからと考えていて、食べることを減らし、考えることを減らすと体と心は調うと考えています。
食べ過ぎの原因として川野さんは、早食い、ながら食い、ドカ食いというのをあげられています。
その早食いということについて、修行道場における食事の問題に触れていました。
修行道場では、食事は「とにかく早く」食べることになっています。
川野さんは、修行道場を出てから「なぜあのような食べ方をしなければならなかったのか」と疑問を持たれたと書かれています。
「ただ「ルールだから」と誰の目にも不健康だとわかるあのような食べ方を「させられていた」ように、私の目には映りました」と書かれています。
さらに「そして修行生活から戻っても同じような早食い、大食いの癖が直らないために、肥満や糖尿病といった生活習慣病に苦しんでいる和尚さんも少なくありません」と書かれているのです。
この点は私も全く同感です。
せっかく修行に来て、体に悪い習慣を身につけるのでは申し訳ないように思います。
川野さんの著書にも、
「一筋の希望として、近年では心ある一部のお師家さん(指導的立場の僧侶)によって、修行道場でもこうした無茶な早食いをさせることをやめ、音を立てず、ていねいに、そしてしっかりと味わって食べることによって、貴重な食べ物から最大限の栄養をいただき、そして供養してくれた信者さん、料理をしてくれた仲間の僧侶、さらには作物を育んでくれた大地や自然に感謝の心を育む取り組みをされています。
まさに禅の修行に「こころ」をよみがえらせる、そのようなお師家さんの尊き在り方に、深く感銘を受けています」
と書かれています。
私なども微力ではありますが、このようなことに心がけているつもりではあります。
修行道場に来ればよい習慣を身につけて欲しいと思っています。
本書を読んで、私が自分でこれから考えなければならないと思ったのが、「仕事」を半分減らすということでありました。
半分減らすという習慣を取り入れたいものです。
川野さんはお寺の住職を務めながら、精神科医としても診療もなされ、その上講演などもこなされていて、よくこれだけの本を書き下ろされたものだと感服して読んでいます。
また本書には、三つのコラムがあります。
そこには呼吸瞑想、食べる瞑想、ありがとう瞑想という三つの瞑想についてわかりやすく説かれています。
三笠書房知的生き方文庫『半分、減らす。』をお薦めします。
横田南嶺