小学生の来訪 – 後生畏るべし –
コロナ禍になって、このようなことをはじめて、それによって、また新たなご縁がたくさんできました。
これもまた有り難いことであります。
コロナ禍ということがなければ、できなかったことだと思います。
そんな中で、私のYouTubeを毎日聴いているという小学生がいるのであります。
先日小学三年生のお子さんからご丁寧なお手紙をいただきました。
小学三年で、私の話を聴いても難しいのではと思いますが、聴いてくださっているのです。
そして春休みに円覚寺に来たいというのであります。
有り難いことにご両親に連れてもらって、先日円覚寺に来てくれたのでした。
愛知県岡崎の阪部君であります。
2012年のお生まれで、まだ満九歳です。
この春から小学四年になるのであります。
まず私が、こんな小学生がどのようにして私の動画にたどり着いたのかを聞きました。
YouTube動画などは、実に膨大なものがあがっています。
子供が私の動画にたどり着くというのは、どういうことなのか興味がありました。
すると、阪部君は、禅の本を読んでいて、その中に延命十句観音経が載っていて、その延命十句観音経に興味をもって、どんなお経か知りたいと思い、検索をしてみると、私の動画にたどり着いたというのであります。
はてなと思いました。
こんな小学生の子が、なぜ禅の本を読むのかと思って、どうして禅の本を読んだのですかと聞きました。
すると驚いたことに、二歳の時に曾祖母が亡くなって、その葬儀に出て、仏教に関心を持ったというのであります。
私が、満二歳の時に祖父の葬儀に出て、そのことが仏教への関心をもつきっかけになったのですが、実によく似ています。
そこで私が自分の話をして、よく似ていますねというと、阪部君は、私の対談動画の中で、細川さんとの対談で私が満二歳で祖父の死に遭って、仏教に関心をもったということを聞いて、自分と同じだと思って、手紙を書いたというのでした。
阪部君の曾祖母のお手伝いさんが、熱心な信仰を持った方らしく、いろんなことを教えてくれたというのです。
これもまた私と似ていて、私も両親が自営業ではたらいていましたので、家にはお手伝いさんが来てくれていて、その方が熱心な信仰をもっていて、私も幼少の頃から宗教的な薫陶を受けていたのでした。
阪部君のご両親が信仰が深いのかと思って聞くと全然そうではないと答えてくれましたが、これも私と同じで、私の両親も特別信仰があるわけではないのです。
阪部君は、キリスト教の幼稚園に通ったらしいのですが、そこで周りのお子さんたちに般若心経を教えていたというのですから、驚きでした。
私もカトリックの幼稚園に通っていたのですが、そこまではしませんでした。
その日は、小学生の子が来るというので、茶菓子にロールケーキを用意してあげていました。
ご両親には和菓子を用意していたのでした。
そして阪部くんにロールケーキを出したのですが、知らぬ間にお父さんの和菓子と入れ替えていました。
どうしたのかと思って、ケーキの方がいいのではと尋ねると、「私は、和菓子の方がいいのです」と答えてこれもまた驚きでした。
小学生ですが、ゲームなどをしたりするよりも、仏教の本を読んだり、お経を読むことの方が好きだというのであります。
本当に驚きの連続でした。
自分とここまで似ている子が世の中にいるのだと驚いたのでした。
話をしていて楽しくなって、対談の動画でも作りたいですねと話をすると、阪部君は、是非ともやりたいというので、その場で、撮影をすることにしたのでした。
YouTube対談動画の小学生版であります。
当然最年少記録であり、たぶん破られることはないでしょう。
こういう少年が現れるのです。
唐代の禅僧船子和尚を思い出しました。
船子和尚は、修行を終えてから寺に入らずに舟の渡し守をして暮らしました。
そして修行の仲間に、これぞと思う僧がいたら寄こしてほしいと頼みました。
三十年ほど待ちながら渡し守をしているのですが、ようやく夾山というすぐれた弟子がやってきて、舟の上で問答をしてその悟境を認めました。
育てることをせずに、待つというのです。
禅は、天然を尊びます。
型にはめて教えるよりも、自ら学び自ら体得した方が強いものです。
喩えはよくありませんが、お魚の養殖物と天然物と違うようなものです。
生け簀に入れられて餌を与えられて育ったのでは、あまり丈夫ではありません。
禅も似たところがあって、修行道場という型の中で教えられた通りのことだけやっていたのでは、そこそこのものにはなりますが、天然にはなかいません。
やはり自らの意志で、自ら工夫して学んで体得してやってくるというのが、天然であります。
そういうことが実際にあるのだと思いました。
もっともまだ九歳の少年ですから、これからどうなるかわかりません。
しかし大いに期待したいものであります。
こういう少年がこの世を照らす光になって欲しいと願うのであります。
まもなく対談動画も紹介させていただきます。
ご両親にも撮影や公開をご了承いただいて幸いでありました。
まさしく「後生畏るべし」であります。
横田南嶺