三つの力
毎週楽しみに拝読しています。
九月十二日は、「内部環境の保ち方」という題でした。
はじめに、人間の体がもつホメオスタシスについて書かれています。
「人間は自分の意思とは無関係に、外気温が高くても低くても、自分の内部環境を一定にする機能が備わっている。それが自律神経の働きだ。誰でも、そうしようと考えなくとも、自分を守る機能を備えているのだ。これはすごいことである。」というのです。
考えてみれば、その通りで、自分で体温を上げよう、下げようなど思わずとも自然に外気に応じて、体温を調節しています。
海原先生は、更に、
「人は身体に関しては、このように内部環境を一定にする働きを持ち合わせているのだが、こころについてはどうだろう。
最近レジリエンスという言葉をお聞きになることがあると思うが、これは「回復力」である。」と書かれています。
このレジリエンスという言葉は私もこの頃学ぶようになりました。
ストレスに堪えることのできる力であります。
身体と同じように、海原先生は、
「こころについても嫌なことや大変なことでストレスが加わった時、レジリエンスは、だれでも持っている。」というのでありますが、
「ただこれは身体の内部環境を保つ自律神経のように、何もしなくても自動的に働くというわけにはいかない。
持っている力をどのように発揮して、ストレスを乗り切るかには、努力が必要だ。」ということです。
そして、
ストレスが加わった時にはどうしたらよいかについて、海原先生は、
「衝撃がきたとき一人で立ち向かえるか、一人では無理なのか、波の大きさを測定することだ。一人で立ち向かえる大きさのものは自分で学んだことを活用する。つまりこれまで先輩から聞いたり本で学んだことを使う。
もしとても大きな衝撃なら一人で立ち向かわずに仲間の応援を頼もう。」
と説かれています。
そのように自分自身をよく見つめて、一人で乗り切ることができるのか、周りの応援が必要なのかを判断することが大事だというのであります。
その通りでありますが、人間はついついまだだいじょうぶ、まだだいじょうぶと思う内に、無理をしてしまうのであります。
同じく毎日新聞の九月十日の夕刊に、作家の坂口恭平さんのことが紹介されていました。
坂口さんは、自身の携帯番号を公開して、自殺志願者の相談を受け続けているのだそうです。
たいへんなことだと思います。
よくなさっていると感服します。
「1日あたりの電話は、以前は数件程度だったが、昨秋から急増して今春には100件ほどになる日も珍しくなくなった。」のだそうです。
記事によれば、
「新型コロナ禍は自殺者数に影響を与えている。厚生労働省によると、国内の自殺者数は03年の3万4427人がピークで、12年からは3万人を下回っていた。しかし20年は前年から912人増えて2万1081人となり、11年ぶりに増加に転じた。」というのであります。
坂口さんは、
「自殺志願者の相談を受ける「いのっちの電話」を始めたのは2012年。当初は福島第1原発事故による放射性物質の影響が心配な人を念頭に電話番号を公開したが、そこから「自殺者の存在が当然になっている社会を変えたいと思った」
のだそうです。
坂口さんの本を私も読んだことがあります。
一人では堪えられないようなことも、誰かに相談して乗り越えることもできるのでありましょう。
私がかつて出した本『いろはにほへと ある日の法話より 二』に、「三つの力」と題して書いています。
ご紹介します。
「三つの力
十二月八日は、お釈迦様が六年に及ぶ難行苦行の末、お悟りを開かれた日です。
ではお釈迦様は、何をお悟りになったのでしょうか?
お釈迦様がお悟りになったことは、
「なんとすばらしいことだ。
あらゆる人いのちあるもの全ては、みな仏様のこころを持っている!」ということです。
それでは、この仏様のこころを持っているとはどういうことでしょうか?
平易に考えてみます。
まず一つめは、生きる力・生きていく力です。
明日へ向かって生きていこうという力です。
生まれたからには誰もが例外なく、この生き抜いていく力を持っています。
二つめは、耐え忍ぶ力です。この世の中に起こることはすべて耐え忍ぶことができると私は信じています。
耐え忍ぶことができないことは起こらないと信じています。
生きていく上でいろいろなつらいこと苦しいことがありますが、それを受け止めて耐え忍んで生きていく力を、私たちはみんな持って生まれて来ているのです。
三つめは、人のことを思いやる力です。自分のことだけではなく、周りのこと、人のことをいくつしみ思いやる力を私たちは持って生まれてきているのです。
生きる力、耐え忍ぶ力、そして人のことを思いやる力。
この三つの力を私たちは生まれながらに持っています。
それを発揮させるための坐禅です。」
生きる力、そして耐える力を持っていると信じたいのであります。
その力を自ら見限らないで欲しいと。
横田南嶺