伝わるもの
「共感はどこからやって来る?~ミラーニューロン~」という記事です。
人間など高等な霊長類の脳には「ミラーニューロン」という細胞があるのだそうです。
「ミラーニューロン」など、全く初めて耳にする言葉です。
これによって、お互いは、相手の行動をわが身のことのように置き換えることができるのだそうです。
たとえば、相手が笑っているのを見ていると、ミラーニューロンを通してなんとなく自分も楽しい気分になるというのです。
また逆に、相手が怒っているのを見ると自分も怒りたくなるというはたらきをするそうです。
人間の「共感」というものには、この「ミラーニューロン」が関わっているというのです。
たとえば、「両親が楽しそうにしていると、それを見ている子どもはミラーニューロンを興奮させて「楽しそうだ」と感じて、まねをします」と書かれています。
もっともこの「ミラーニューロン」は、決して良いことばかりではないようです。
「ドメスティックバイオレンス(DV)は遺伝するように見えるけど、実はあれは行動パターンをまねしているだけなんだ」ということです。
「DVは先天的に遺伝するのではなくて、お父さんやお母さんが子どもにDVをすると、ミラーニューロンを通して子どももDVをするように脳が変わっていく」のだというのであります。
子どもはどこか親に似たように育っていくのは、ミラーニューロンのはたらきだそうです。
なるほどと思うことは多々あります。
最近耳にしたあるお寺の話です。
そこのお寺は、祖父と父と子と三世代で暮らしていました。
祖父が、毎年暮れに餅つきをなさっていました。
祖父は、もう寺の住職を引退してるのですが、餅つきを必ずなさっていたそうです。
餅つきは、数日前に小欄でも紹介したように、一人二人でできるものではありません。
住職である父は、暮れの忙しい時に、かなわないと思っていたそうです。
できれば止めたいというのが本音だったようで、祖父が亡くなると、餅つきをお寺で行うことはなくなったそうです。
やがて、その子も結婚して子どもができ、父であった住職は、孫にとって祖父になり、子であった和尚は父になりました。
すると、あれほど餅つきを嫌がっていた住職が、孫の為にも餅つきをしようと言い出したのだそうです。
息子は、この年末の忙しい時にかなわないと私にこぼしていました。
祖父のやっていたことが、その子にそのままうつり、父の言動や行動がそのまま子にうつっているのです。
微笑ましい光景でありますが、これも「ミラーニューロン」のはたらきなのかなと思います。
では、私はというと、ミラーニューロンがどんなはたらきをしたのかなと考えてみました。
親元からは十八歳の時に離れたきりです。
どんなことを受け継いでいるのかなと思うと、思い当たることがあります。
父は、いわゆる職人気質で、今言われる働き方改革などとは対極にある暮らしをしていました。
土日の休みなども、必ず工場にいっていました。
お盆も正月も関係ないような暮らしでした。
小さな鉄工所の社長でありながら、現場を大事にされて、いつも作業着を着て現場にいました。
盆も正月もなく、はたらくというのは、今の私もそうであります。
もっともお寺ですから、盆も正月も忙しいのは当たり前です。
掃除をする、餅つきをする、沢庵を漬ける、いつもその現場にいることを大事にしています。
今年は年末まで木の葉っぱが散らずに残り、三十日などは強い風が吹いて、掃き掃除に追われました。
修行僧たちが掃除をしてい現場にいることが楽しみであります。
自分で今の暮らしを考えてみると、本当に働き方改革とは対極で、休みなどはありません。
父は仕事をすること自体が楽しみであり、ことさらに休みなど考えもしなかったのだろうと思います。
私も、毎日の勤めをすることが楽しみで、別に休みを取ろうなどと考えることはありません。
こんな暮らしを当たり前のように思っているのは、幼い頃からいつもはたらいる父の姿を見ていたから、「ミラーニューロン」がはたらいたのかなと思います。
というわけで、正月の朝早くからお勤めをしますが、その前のわずかな時間を使って、こんな文章を書いています。
毎日の文章を楽しみにしていますと、お手紙をくださる方がいらっしゃるので、また今年も書いてゆこうと思います。
読んでくださる皆さまのおかげであります。
どうぞ本年もよろしくお願いします。
横田南嶺