童謡とジブリと
禅文化研究所からの依頼で、本のオビに推薦文を書かせていただきました。
重松先生は、花園大学でもご講義を下さっているご縁もあります。また重松先生のお師匠さまは、円覚寺で修行された方でもあります。
オビには、
「どの童謡を読んでも、メロディーが浮かんでくる。
思わず口ずさみたくなる。
私には懐かしい紀州の山河も目に浮かんでくる。
忘れていた童心に帰る。
そんな心で、重松先生の深い解説を読むと、一層心に染みてくる。
読み終えて、心地よい禅の風が吹き渡るのを感じることができた」
と円覚寺派管長と花園大学総長という二つの肩書きで書いたのでした。
いい本なので、お勧めです。
しかしながら、今私の周りに居る平成生まれの雲水たちに、ここにある童謡を知っているかと聞くと、ほとんど知らないのです。
彼らの世代には、この本は、ピンとこないか、遠い過去の話でしかないのでしょう。
今月末には、龍雲寺の細川晋輔老師の著書『禅の言葉とジブリ』が上梓されます。
こちらも見本を送っていただきました。
細川さんのことは、小欄でも何度もご紹介させてもらっています。
私よりも十五歳もお若いのですが、修行もでき、よく勉強もされて、そのうえお人柄もよろしく、こらから大いに活躍される禅僧だと期待しています。
細川さんとのご縁で、ジブリの鈴木敏夫さんと対談をさせてもらって、それは『禅とジブリ』という本になって出版してもらいました。
その頃からのご縁で、ジブリで出されている雑誌『熱風』を毎月送っていただいています。
その誌面に、毎月細川さんがジブリの作品と禅語とを組み合わせて文章を書いてくださっていたのでした。
毎月送ってくださるので、拝読して率直な感想を細川さんに書いてあげていました。
よく書けていると褒める場合もあれば、これからの細川さんの大成を願って、かなり辛辣な批評を書いたこともありました。
それでも、お心の広い細川さんは、あたたかく受けとめてくださっていたようです。
この本のあとがきにも、そんな事を書いてくださっています。
またこの『禅の言葉とジブリ』には巻末に、円覚寺YouTubeチャンネルで細川さんと対談した内容をすべて文字におこして掲載してくださっています。
「コロナ時代と禅 ~無分別智で混沌を生きる。~」という一章で、四〇ページも及んでいます。
まるで、この本のために対談したかのように掲載されていますが、YouTubeで公開したものを文字にしたものです。
あの対談も好評で多くの方にご視聴いただきました。それが文字になって読み返すのもまた違った味わいがあります。
この本は、ジブリの作品のそれぞれについて、関連する禅語を解説されています。
童謡と違って、ジブリとなると、平成生まれの雲水たちは、どれを聞いても、知っていると目を輝かせます。
彼らの世代には、ジブリから禅を説くというのはいいことだと感じました。
童謡もジブリもと、随分節操の無いように思われるかもしれませんが、禅は、私たちの見聞覚知のはたらきすべてに現れているのです。
童謡を聴いて懐かしく思うのも、ジブリを視て楽しむのも、みな禅に通じるのです。
古の禅僧に修行僧が聞きました。禅の道にはどこから入ったらいいのでしょうかと。
折から寺の外には谷川が流れていました。
禅僧は、川の流れる音が聞こえるかと問いました。
聞こえますと答えた僧に、「そこから入れ」と答えたのでした。
どこからでも禅に通じる道があるのです。
横田南嶺