新三聚浄戒の勧め
今年の七月三十一日付の小欄にその詳細を記しています。
改めて、布薩とは何かというと、
「半月に一度、定められた地域(結界(けっかい))にいる比丘(びく)達が集まって、波羅提木叉(はらだいもくしゃ)を誦して自省する集会」
のことであります。
波羅提木叉とは、「戒」のことです。
仏教の教団においては、とても大事な行事なのです。
三年程前に、本山の住職研修会で、臨済寺僧堂の阿部宗徹老師に、戒についてご講義いただいて、老師は、臨済寺で布薩を行っていると聞いて、臨済寺におうかがいして、お教えいただいてきたのでした。
私なりに独自に作成して、一回の布薩で、合計百回礼拝を重ねるようにしています。
はじめにお釈迦様から、歴代の祖師方の名前を唱えて、懺悔して礼拝をします。更に三千仏の名号を称えて礼拝をします。
罪を懺悔して、三千の仏様のすべてをまかせゆだねるのであります。
その後に、三帰戒、三聚浄戒、十善戒、十重禁戒を一つ一つ、本文と現代語訳を皆で唱和して、戒を自覚するのです。
この頃は、近在の若い和尚様方もご参加下さっています。
戒をただ儀式として条文を読むのではなく、現代語で唱えて自ら反省するようにしてます。
それでも、ずっと続けていると、いつの間にか、ただ惰性で礼拝し、ただなんとなく唱えてしまうようになりがちです。
竹村牧男先生の『心とはなにか 仏教の探求に学ぶ』の中で、
「新三聚浄戒の勧め」ということを説かれています。
三聚浄戒は、「さんじゅじょうかい」と読みます。
三つの極めて基本的な戒であります。
戒というと、禁止事項ではなく、良き習慣を身につけることだといつも申し上げています。
三聚浄戒などは、まさしく禁止事項ではなく、良い習慣そのものです。
三聚浄戒とは、第一摂律儀戒(しょうりつぎかい)、第二摂善法戒(しょうぜんぽうかい)第三摂衆生戒(しょうしゅじょうかい)の三つです。
難しい言葉ですが、松原泰道先生は、三聚浄戒を分かりやすく
「小さいことでも少しでも悪い事は避け、よいことをし、人にはよくしてあげよう」
と説かれていました。
仏道というのは、このことに尽きるといっていいでしょう。
竹村先生は、
第一の摂律儀戒、悪いことを避けるとは、十善戒を守ることだと説かれています。
十善戒とはどういうものかというと、いつも布薩で唱えている言葉を紹介します。
第一不殺生(ふせっしょう)
すべてのものを慈しみ、はぐくみ育て
第二不偸盗(ふちゅうとう)
人のものを奪わず、壊さず
第三不邪婬(ふじゃいん)
すべての尊さを侵さず、男女の道を乱すことなく
第四不妄語(ふもうご)
偽りを語らず、才知や徳を騙(たばか)ることなく
第五不綺語(ふきご)
誠無く言葉を飾り立てて、人に諂(へつら)い迷わさず
第六不悪口(ふあっく)
人を見下し、驕(おご)りて悪口や陰口を言うことなく
第七不両舌(ふりょうぜつ)
筋の通らぬことを言って親しき仲を乱さず
第八不慳貪(ふけんどん)
仏のみこころを忘れ、貪りの心にふけらず
第九不瞋恚(ふしんに)
不都合なるをよく耐え忍び怒りを露わにせず
第十不邪見(ふじゃけん)
すべては変化する理を知り心を正しく調えん
の十の戒です。
これらを意識することで、悪いことから遠ざかることができます。そういう習慣を身につけるのです。
二番目の摂善法戒、良いことをするとは、竹村先生は、
六波羅蜜を実践することだと説かれています。
一番目は布施、施しです。何かを施してあげることです。
物を施すだけでなく、言葉をかけてあげることも施しであり、笑顔をふり向けることも施しです。
二番目は、持戒で、良い習慣を保つことです。
三番目は、忍辱で、堪え忍ぶことです。
どんなに辛いと思っても一時の事だと冷静に今の状況を受け入れることです。
四番目が、精進で、怠らずに努め励むことです。
五番目が、禅定で、心を静かに調えることです。
六番目が、智慧で、正しくものを観ることです。
そして三聚浄戒の三番目が、摂衆生戒で、人の為に尽くすことであり、これを竹村先生は、四無量心であると説かれています。
四無量心とは、「慈・悲・喜・捨」の四つの心です。
竹村先生は、
慈しむ心の「慈」、
相手と同じ心になる「悲」、
相手が苦を離れ楽を実現することを喜ぶ「喜」、
どのような人にも差別なく対する「捨」
の四つの心だと説明されています。
そして竹村先生は、「これだけを指針として自覚するのが、今後の仏教の戒のあり方としてよいのではないか」と指摘されます。
それを、竹村先生は「新三聚浄戒の勧め」として「現代社会に広めていければ」と語っておられるのです。
戒を説くことを、私たちは怠りがちではないかと反省します。
戒こそが禅定の土台であります。
仏道とは、この三聚浄戒に尽きるといっていい位の気持ちで、自ら意識し、人さまに法話する折りにも、この三聚浄戒をおりまぜて話をするようにしようと思います。
横田南嶺