いいかげん
免疫については、かねがね関心をもって学んでいましたので、じっくりと読んでみました。
「新型コロナのワクチンは開発途上にあり、実用化されても普及に時間がかかるとされている」とあって、まさに現実はその通りなのでしょう。
そこで奥村先生は、「感染したことがなければ、まずは自然免疫で対抗しなければならない」というのです。
自然免疫については、以前小欄でも学んでことでした。
免疫には、「自然免疫」と「獲得免疫」とがあります。
ワクチンの接種によって得られるのが「獲得免疫」です。
それともう一つの免疫が「自然免疫」です。
私たちが生まれながらに持っている免疫です。
自然免疫の代表格は、白血球の中のリンパ球の一種で、がん細胞の増殖を防ぐことで知られるナチュラルキラー(NK)細胞だそうです。
奥村先生は、自然免疫を街のお巡りさんに、獲得免疫を軍隊に喩えられます。
自然免疫は、体内を絶えずパトロールし、小さな異変に対応して治安を守ってくれているのだそうです。
お巡りさんだけではどうにもならない相手が現れたら、今度は軍隊である獲得免疫の出番です。
奥村先生は、
「私たちの体内で一日に約一兆個の細胞が新たにできますが、このうち約五〇〇〇個はがん細胞です。
街のお巡りさんであるNK細胞が体内を見回り、がん細胞を取り締まっているからこそ、健康な人はがんにならない。
同時に、NK細胞はウイルスに感染した細胞をやっつけてくれているのです」
というのであります。
自分でも意識しないところで、常にはたらいてくれているのです。
これもまた、私どもの言葉で言えば、仏心の霊明なるはたらきというところでしょうか。
更に奥村先生は、
「ところが、NK細胞は加齢だけでなく、不規則な生活や激しい運動、精神的ストレスなどに弱いのです」
と指摘されます。
免疫細胞は、自律神経のバランスが整っている時に活性化するそうです。
そこで不規則な生活は大敵となります。
NK細胞は、身体をリラックスさせる副交感神経が優位の時に攻撃力が高まるのだというのです。
睡眠不足や昼夜逆転、時差ボケなどが続くと常に交感神経が優位になって、免疫力が低下してしまいます。
不規則な生活はやはり身体によくないのです。
それから驚いたのは、激しい運動も免疫力の低下を招くそうです。
奥村先生は、体育会系の出身者は、そうでない人よりも平気寿命が少々短いと書かれていました。
ただウオーキングなどの適度な運動はストレス発散になってNK細胞の活性化につながるそうです。
食事については、ヨーグルトなどの乳酸菌を摂ると、NK細胞が活性化することが分かっているそうです。
それから、笑いがストレス発散にはいいとも書かれています。
さて、最後に奥村先生が指摘されたことが興味深いのです。
「いくら規則正しい生活や適度な運動、バランスの取れた食事に取り組んでいても、ストレスを抱えてしまっては元も子もない」と言われます。
『フィンランド症候群』と呼ばれる有名な調査があるそうです。
それはどういうものかというと、
「フィンランドで、生活環境が似ている四〇~四五歳の管理職一二〇〇人について、健康管理をしっかり行うグループと何もしないグループに分けて七十四年から追跡調査したところ、五年後には前者のグループのほうが死者数が多くなった」というものです。
それを紹介して奥村先生は、
「健康に気を使うことはもちろん大事ですが、気にしすぎてストレスを抱えると逆効果になる。適度にいいかげんであることが、実はとても重要なのです」
と指摘されています。
これはまさにその通りだと思いました。
私たちは、何でもやり過ぎて、頑張りすぎる傾向があります。また逆に怠けすぎてしまうかのどちらかです。
有名アスリートの選手が練習の秘訣を尋ねられ
「やり過ぎないことに一番注意しています」と答えたという話を聞いたことがありました。
やはり、大いなる御仏の御手に抱かれて、安らかに穏やかに無理なくゆだねて、いただくものを有り難く頂戴することが大切かと思います。
横田南嶺