慈悲の器
いつもながら佐々木先生の明晰な解説には深く納得させられます。
花園大学の誇るべき先生であり、私も尊敬申し上げております。
そのなかに「慈悲の器」という一章があって、感銘を受けました。
お釈迦さまの教えというのは、この世の生きる苦しみに疲れ、
もうどうにも行き場のなくなった人たちを救うものであると説かれています。
そこで更に佐々木先生は、
「…自分が苦しい目に遭った人は、他人の苦しみも理解できるようになる。
つらい思いをしている人は、自分でも気付かないうちにその分人間性が磨かれているのだ。
そういう人たちが大勢になって初めて、社会もすこやかなものとなる。
そう思えば、今、苦しい状況にある若者たちは、これからの日本にとっての貴重な人材ではないか。」
と仰ってくださっています。
この本は、今から十一年前に出版された本なのですが、この言葉などは今読んでも深く心に響いてきます。
そして今のようなときにこそ、多くの人たちに知ってもらいたいと思います。
佐々木先生は更に
「その『生の苦しみ』こそが、
智慧と慈愛を生み、満足できる人生の大切な栄養分になるという釈迦の教えは知っていてもらいたい。
そして仏教界の人たちには、
時代の波の中で苦悩する若者たちの気持ちを理解し、
彼らを大切に見守り応援していってほしい。
仏教はいつの世でも『慈悲の器』なのだから」
とその一章を結んでおられました。
佐々木先生は、そのお言葉通り慈悲の器そのものの先生で、
花園大学で四月に授業が始められない、
急なことでオンラインの設備も整わないという中で
いち早く、YouTube上に公開の授業をなさってくださっています。
私もその恩恵にあずかって、先生のご講義を自室で拝聴させてもらっています。
今のような苦しい状況だからこそ、慈悲の器、仏教が求められるのです。
横田南嶺