自然は大きい
知人が、朝日新聞に載っていた坂本龍一さんの記事を教えてくれました。
私は音楽のことは全く存じ上げないのですが、有名な音楽家らしいのです。
一流の人の物の見方には啓発されることがよくあります。
今回の、新型コロナウイルスの件についても、
「人間は歴史のなかで何度もこういう経験をして、それでも音楽はなくならなかった。この状況に適応する新たな方法を探していくしかない」
と語っていました。
さまざまな公演が尽く中止となるなかで、坂本さんは個人でライブ配信などもなされていると書かれていました。
「砂漠の一滴になるかもしれない」
という思いを語っておられます。
私如き一介の僧と大音楽家を比べるのは恐縮千万ですが、私なども法話の配信を始めたのも、同じような思いかと存じます。
更に感動しましたのは、
「ウィルスもそうだが、自然は人間より圧倒的に大きい。それなら人間の作った楽器の音にこだわる必要がない」
と語っているのです。
更に
「最近はむしろ、私という人間が作った人工の音を邪魔して、壊してやりたい……」
とまで語っておられました。
ここまで言われますと、禅に通じるのです。
禅では、私という人間が作った概念や思考や知識を、ことごとく壊してしまう修行なのです。
そうして、大いなる自然にとても及ばぬと、降参してしまうのです。
絶えず移り変わり、固定した自己など持たぬ大いなるはたらきの中に、身を委ねてしまうのです。
それがともすれば、人間の作り上げた禅の思想なるものにとらわれてしまう傾向がどうしても強いのです。
だからこそ、禅の修行、とくに公案の修行では、どんな考えも思いも厳しく否定することを繰りかえすのです。
ただし、新型コロナウィルスへの対策は、しっかりとやらなければなりません。
委ねていたら感染してしまいますので……要注意。
横田南嶺