今日の言葉
川原屋
私の新著『仏心の中を歩む』に「かすがいの話」という一章があります。
そのなかに川原屋について書いています。
江戸時代から、昭和のはじめまで、私のふるさと新宮市熊野川の川原に、川原屋(かわらや)と呼ばれる家が、百数十軒も並んでいたのでした。
熊野川の川原は、木材を運ぶための筏流しや物資を輸送する小舟などが集まったところでもありました。
そこで、この川原に宿屋、鍛冶屋、散髪屋、銭湯、飲食店などがあって、一つの町が形成されていたのでした。
私の生家は、この川原屋の鍛冶屋でした。
祖母から、よく川原屋の話を聞いていました。
川原屋は、戦後川にダムが出来、道路が整備されて、物資の輸送も容易になって、昭和二十年代になくなったのでした。
今まで、話で聞いただけでしたが、このたびふるさとに帰ると、
速玉大社の近くに、川原屋を復元したお店があり、そこの掲示板に親切な解説がありました。
私も川原屋の写真を見るのは初めてでした。
『仏心の中を歩む』にも記していますように、この川で筏流しをやっておられたのが、山本玄峰老師であり、
私のご先祖は、その筏を組むためのかすがいを作っていたのでした。
こんなところに、すでにご縁の種がまかれていたのでしょうか。
横田南嶺