彼岸会
お彼岸中には一日、兼務住職を務める東京文京区白山の龍雲院に参ります。
龍雲院は、私が学生時代に起居し、ここで出家得度させていただいたお寺であります。
先代の小池心叟老師が、お亡くなりになる前の年から、兼務住職を務めてきています。
この頃は、ほとんど副住職に任せているのですが、お彼岸の一日は、お経をあげに行っています。
本堂で、龍雲院の檀信徒先祖代々のご回向を申し上げ、そのあとお寺の開山様や歴代の和尚様方のお墓にお参りし、
中興の南隠老師や師匠の小池心叟老師のお墓にお参りして、
最後に、誰も供養する人がいなくなってしまった無縁墓地に読経します。
禅僧は、ふつう二人の師匠を持つ事になっています。
一人は、出家得度の師であり、もう一人は僧堂で参禅させていただく師であります。
私の場合、得度の師は龍雲院の先代小池心叟老師であり、参禅の師であり嗣法の師でもあるのが円覚寺の先代の足立大進老師であります。
思えば勝れた方々にご縁をいただいたものであります。
小池老師や足立老師のほかにも、松原泰道先生、目黒絶海老師、湊素堂老師などなど、一流の禅僧方の謦咳に接し、薫陶をいただくことができました。
心叟老師の墓前に読経していると、十八歳の頃初めてお目にかかった頃を思い起こします。
老師もまだ六十代でありました。
叱られた恩を忘れず墓参り というどなたかの句がありますが、お墓にお参りして師をしのぶのもいいことです。
先月足立老師もお亡くなりになって、これで二人の師が亡くなりました。
なお一層わが身を引き締めてゆかねば と思うのであります。
横田南嶺