掲示板の詩
坂村真民記念館開館八周年記念特別展では、黄梅院の掲示板の詩を取り上げてくださいました。
これは、平成十一年に私が黄梅院の住職に就任して以来、門の下にある掲示板に真民先生の詩を毎月書いてきたものです。
はじめた頃は、よくお寺に紙と筆記具を貸してくださいと言われることがありました。
掲示板の詩を書き写したいというのでした。
それから、だんだんと携帯電話のカメラで撮られるようになってきて、紙と鉛筆を頼まれることはほぼ無くなりました。
今も掲示板の前で、詩をカメラにおさめている方の姿をよく見かけます。
境内を通り過ぎる人に、ほんの一時でも足を止めていただいて、真民詩を読んでもらいたいと思って、書き続けてきました。
毎月書いていると、どうしてもたくさんの詩を学ぶ必要があって、全詩集八巻を読んで、そこから選んできました。
長い詩では、字が小さくなって読みにくくなり、そうすると通り過ぎてしまわれるので、短い数行の詩を選んだり、長い詩の一部を切り取ったりして書いてきました。
そうしてかれこれ二十年書いてきたことになります。
おかげで詩集をよく読み込むことができました。
しかしながら、展示の為に書いたものではなく、その時限りのものだと思って書いていますので、字の割り振りなどはきちっとしたものではありません。
頼まれ書く場合は、字の割り振りなど、測って行うのですが、掲示板はなにもせずに書いたものです。ですから展示して見てもらうようなものではないのです。
それが、意外にも記念館に展示されているのを自分で見ても、それほど悪い感じではありませんでした。
自由に書いたのが却って良かったのかもしれません。
展示室の入り口には、掲示板をほとんどそのまま復元したような設えになっていて驚きました。
そして、展示室には十四点の掲示板の詩が表装されて額に納まって飾られていました。
掲示板の時は、一点しか見ないのですが、こんなにたくさん並べると、それなりに迫力があるものです。
三十九年前の高校生の頃に、真民先生とご縁ができて、長年詩を読んできて、そして黄梅院の掲示板に二十年コツコツ書いてきたものが、いまこうして多くの人に見てもらえるとは、驚きと感動であります。
つくづくとめぐりあいの不思議に手を合わす思いです。
横田南嶺