金光寿郎さん その2
金光さんにお目にかかった折りに、今まで何百人もの僧侶や宗教家に会ってきて、一番印象に残っているのは誰ですかと聞くと、
即座に「鈴木大拙先生だ」と答えられました。
その後、では二番目はどなたですかとうかがうと、その時にはしばしお考えになって、竹部勝之進さんの名を挙げられました。
竹部勝之進という方は、私もその時初めて耳にしたのでした。
竹部勝之進さんは、明治三十八年に福井県にお生まれになって、行商をしながら生計を立てて、
お念仏の教えを学び、独自の詩をお作りになった方です。
昭和六十年に八十才でお亡くなりになっています。
金光さんが、竹部さんが印象に残っていると言われて、次の詩を紹介してくれました。
タスカッタヒト
タスカッテミレバ
タスカルコトモイラナカッタ
短い言葉ですが、深い教えがあります。
助かることもいらなかったという安心です。
それから、手に入れることが難しかったのですが、竹部勝之進さんの詩集『はだか』を手に入れて学びました。
こんな詩が私には印象に残りました。
ヒカリ
コドモガカクレンボウヲスルガ
ミヲカクスコトハデキナイノダ
木ノカゲニカクレテモ
森トトモニアルノダ
天地トトモニアルノダ
どんなに隠れたつもりでいても、みほとけのお体の中にいるのであって、そこから出ることはないという安心でありましょう。
誰しも皆そんなみほとけの中にありながら、自分で垣根を作ってしまい、苦しみ悩むのです。
こんな詩もあります。
垣ヲスル
垣ヲスル
垣ヲシテ
垣ノウチダケヲ
ワガモノト思ッテイルガ
ソウデハナイ
天地ガワガモノデアル
広い垣根の無い天地に生きているのだと気がつけば、次のような詩の心境になるのでしょう。
天下泰平
フッテヨシ
ハレテヨシ
ナクテヨシ
アッテヨシ
シンデヨシ
イキテヨシ
妙好人のような詩を残された竹部勝之進さんです。
そんなすばらしい方を教えてくれたのも金光さんでした。
横田南嶺