金光寿郎さん
金光寿郎さんがお亡くなりなったと知りました。
先月十九日に、九十二才でお亡くなりになったそうです。
私も数年前に、NHKラジオの「宗教の時間」収録を依頼されて、東京のスタジオまで出かけた折りに、金光寿郎さんにお目にかかりました。
金光さんは、実に五十年以上に亘って、NHKテレビの「こころの時代」ラジオ「宗教の時間」を担当していたディレクターでした。
そのラジオ収録の後、金光さんに色んな話をうかがいました。
なにせ半世紀以上、宗教番組を担当して、何百人もの僧侶や宗教者に接して話を聞いて来られた方です。
私は、「金光さんは今まで実に多くの宗教家に出逢って、一番これはという印象に残っている方はどなたですか」と聞きました。
しばらくお考えになるかと思いきや、即答でした。
金光さんは「それは大拙です。鈴木大拙先生は、やはり違いました」と仰いました。
そのときに金光さんは、こんな話をしてくれました。
大拙先生は禅のみならず、浄土真宗も学ばれて、教行信証の翻訳も手がけていらっしゃいました。
当時、岡村美穂子さんがおそばにお仕えしていて、あるとき大拙先生に、
「阿弥陀様の本願というのがどうしても分からない」と訴えました。
大拙先生はその時お鬚を剃っていて即答できず、しばらくして岡村さんが台所で朝餉の支度をしていると、
奥の部屋から「美穂子さん」と呼ぶ声がします。
岡村さんが駆けつけると、大拙先生は窓の外を指さしました。
そして一言「本願が上ってきた」と。
窓の外を見ると朝日が上って来ていたそうです。
こういう答えは、誰しもができるものではありません。
仏教の本質を探求し、そこから更には阿弥陀様、永遠のいのちを坐禅して深く体得していればこそ出てきた答えでありましょう。
金光さんご逝去とうかがって、そんな在りしの問答を思い起こしました。
ご冥福を祈ります。
横田南嶺