『朴』
今月二十二日に愛媛県砥部町で、坂村真民先生の詩について講演をするので、時間を見つけては詩集を読み返しています。
今手元においているのが、坂村真民詩集『朴』です。
『朴』に収められている詩は、すべて『坂村真民全詩集』の第二巻に入っているのですが、この単行本の方が、表紙も本の名の通り、素朴であたたかみがあって、読みやすいのであります。
この本の扉には、「念ずれば花ひらく」の真民先生直筆の書もあって、真民詩の心がより強く伝わってくる思いがします。
『朴』は、真民先生が五十八才で、『自選坂村真民詩集』を出版されて、そのあとの第一詩集です。真民先生六十二才の時に上梓されています。
序文は、真民先生が「仏教学専攻者として、また伝道者として私が一番尊敬している」という紀野一義先生。
紀野先生は、序文で「朴にしてかたちづくらぬ」人と真民先生を表現されています。
『朴』の収められている『全詩集第二巻』は、真民先生のもっとも純粋な、一途な思いのあふれる詩が多く、私がもっともよく繙く一巻です。
『朴』にある詩も良い詩ばかりです。
こんな詩があります。
この混乱した日々のなかで
この混乱した日々のなかで
小鳥たちはいつも澄んだ目をして
迎えてくれるし
野の花たちは
昔とかわらない微笑を
おくってくれる
早く目を覚まそう
早く挨拶をかわそう
……
どんなに世の中が混乱しようとも、このような澄んだ目と微笑みを失いたくないものです。
詩集『朴』を手に取りながら、このあたたかみのある表紙、かたちづくらぬ書、清らかな言葉に触れて、立春の喜びを感じています。
横田南嶺