野沢の龍雲寺
新年の三が日は、大般若の祈禱を行って、
四日からその祈禱札を以て、檀信徒のお宅に年始廻りをするのが、寺の慣例です。
私も昨年まで、年始廻りを行っていました。
しかし、昨年の十一月を以て塔頭黄梅院の住職を辞しましたので、その必要がなくなりました。
そこで、ご縁の深いお寺に挨拶をしてまわりました。
その一つが、東京の世田谷区の野沢にある龍雲寺様であります。
龍雲寺のご住職細川晋輔老師には、いつもお世話になっています。
とりわけ、毎月の小川隆先生の臨済録の勉強会は、私は発案しただけで、
実際の運営を龍雲寺にある東京禅センターの和尚様方のお世話になっています。
お寺にうかがうと、閑栖の細川景一老師はじめ、ご一家みなおそろいで、お元気なご様子、
しばし楽しく歓談させていただきました。
細川晋輔老師は、私よりも十五歳お若いのですが、修行も出来て、学問もなさっていて、最近は花園大学でもご講義いただいています。
今や、大活躍の老師であります。
帰りがけに、一冊の本を頂戴しました。
『VS仏教 “ブッタの教え″は現代の悩みに勝てるのか!?』という昨年末に出された本です。
細川老師はじめ六名の若手の僧侶方が、現代人の悩みに答えるという内容です。
質問に対して、単純に答えるだけでなく、僧の答えた内容に対して、更に鋭く問い詰めてゆくというものです。
一番はじめに細川老師の質疑応答が出ています。
友人のインスタが嫌い、友人のSNSなんて気にしなければいいと割り切りたいけど、どうしても自分と周囲を比べてしまう、
どうすればいいでしょうかという二十代の女性の悩みです。
それに対して、細川老師は、「実は私、SNSが大好きです」と衝撃の一言から答えが始まっています。
「私も他人と比べてしまうことがあります」と率直にお認めになった上で、
なんのためにSNSをしているのかと問いかけて、SNSをやめるのではなく、忘れることを説いてくださっています。
しかし、それで終わるわけではなく、この女性が更に忘れることなどできるのですかと問い詰めてゆく展開であります。
細川老師は、目線を変えてみることなど具体的な例をあげながら、説き進めてくださっています。
細川老師の親切心があふれています。
私もかつて同じような悩みを相談されたときに、「ああ、それはね、電源を切ればいいのです」としか答えなかったことがありました。
細川老師の親切なお導きを読みながら、我が身を深く反省しました。
まだ、他の方々の章を読んでいないので、これから読んでゆきたいと思っています。
お若い和尚さま方は、私などにはない深く細やかな感性をお持ちです。そのあたりを学んでみたいと思っています。
横田南嶺