年賀状
一月一日には年賀状がたくさん届きます。
何百枚なのか数えていないので分かりませんが、とにかくたくさんです。
一枚一枚拝見しながら、こちらから出していないところには、年賀状を出すようにします。
年賀状に、毎月の日曜説教を楽しみにしていますと書かれているとうれしくなります。
なかには、なんと毎日の管長侍者日記を楽しみにしていますと書いて下さる方もいらっしゃって、
これはお世辞のたぐいであろうと思いながらも、うれしいものであります。
そんな年賀状の中に、驚くことがありました。二通の年賀状を拝見してのことであります。
一つは、鍵山秀三郎先生からの年賀状であります。
鍵山先生は八十六歳で、近年ご病気で療養中とうかがっていまして、
私自身も対談本を出させてもらってからは、長らくお目にかかっていません。
ご病状のことなどは、鍵山先生に親しい方からうかがっていました。
鍵山先生は、ご存じイエローハットの創業者であり、日本を美しくする会を作られた先生でもあります。
驚いたというのは、鍵山先生の年賀状は宛名も、本文もすべて手書きなのでした。
たくさんの年賀状を頂戴しても、今やほとんどは印刷の年賀状であります。
宛名を手書きという方はいらっしゃいますが、本文は印刷が大半です。
それがご療養中にありながら、ご丁寧な書で認められていました。
新年の賀辞のあとに、
「日本の国家 社会 人心の浄化のために 日夜おつとめいただきまして 厚くお礼申し上げます 令和二年 元旦」と
謹厳な字で書いてくださっていました。
こういうお言葉を鍵山先生からいただくと、より一層精進しなければと思います。
もう一枚深く感銘を受けましたのは、九十歳を超える、とあるご老僧からの年賀状であります。
このご老僧の年賀状もすべて手書きであります。
ご老僧は、戦争体験もお持ちの今や数少ない禅僧であります。
年賀のことばの後に
「ご講話を致知、禅文化、大法輪等で拝読しています。且つ総長(花園大学)職もあり、超多忙のことと存じます。」
と書かれていました。
ご高齢にも関わらず私如き若輩者の書いた文章をお読み下さっているとは恐縮しました。また頭の下がる思いです。
驚いたのは、その後に、私がまだ先代の管長にお仕えして修行していた頃、
私の寝る時間の少ないことに、よく体が持っていると思ったことでしたと書かれているのでした。
そうして最後に、「どうかご法身ご大切にしてご教化下さるよう願い上げます」と認められていたのです。
実は、修行時代に、このご老僧と特別親しかった訳ではありません。
しかし、私の修行ぶりを目にかけてくださっていたのでしょう。
そして今も、私如きものの拙い文章をお読み下さっているとは感激しました。
ご老僧は昭和二十一年に円覚寺の僧堂に掛搭されています。
九十歳を超える、この道の大先輩のご老僧から心の温まるお言葉をいただいてうれしい限りです。
新年早々、有り難い激励をいただいた思いの年賀状二通でした。
横田南嶺