目黒絶海老師
年末に宇和島の大乗寺の河野徹山老師から、目黒絶海老師の墨跡を頂戴いたしました。
目黒絶海老師は、和歌山県由良町にある興国寺の老師で、
私が初めて正式に参禅した老師です。
懐かしいなと思って拝見していると、今度は京都の千真工藝の竹本さんからも、目黒絶海老師の墨跡を頂戴しました。
奇しくも、わずかの間に、絶海老師の墨跡を二輻も頂戴しました。
なんという不思議なご縁であります。
思えば絶海老師にお目にかかったのは、まだ私が小学生の頃でした。
新宮市の清閑院という禅寺の坐禅会に提唱にお見えになっていたのでした。
その折りの絶海老師のたたずまい、お姿に深く感銘を受けました。
特に、提唱の前に本堂で焼香なされて後、恭しく三拝なされるお姿に感動しました。
こんなにも神々しい、尊い世界があるのだと身震いするような感激を受けたのでした。
この「老師」と呼ばれている方には、何か違うものがあると子供ながらに思ったのでした。
そうして、お寺の毎月の坐禅会に通うようになり、
中学生の時に、清閑院の和尚様に勧められて、独参をさせていただき、絶海老師から公案を頂戴したのでした。
まだ十三歳の頃でした。そんな頃から、公案禅に参じさせてもらえたのは、生涯の幸せであります。
それ以来二十年は修行者として公案に取り組み、その後二十数年は師家として今も公案と格闘しています。
絶海老師との出逢いが私の一生を決めたのでした。
いただいた墨跡は二輻とも、老師のお元気な頃の書で、躍動感あふれ、老師らしい自由豁達な趣があります。
絶海老師の書を拝見しつつ、初めて禅に参じた頃の気持ちを忘れぬように自らを戒めています。
横田南嶺