こころころころ
年末になると、喪中のはがきをいただきます。
はがきを拝見しながら、あの方も今年亡くなったのだなと、思いを新たにいたします。
そんな中に、東大の門前にある仏教書専門店からの喪中はがきもございます。
今年の二月に、その書店の主が亡くなったのでした。
その書店は、出版も行っていて、円覚寺では
朝比奈宗源老師の『無門関提唱』や『碧巌録提唱』なども上梓していただいています。
そんなご縁もあって、先代の足立管長も上京なさるたび毎に、立ち寄られていました。
私も学生時代にもお世話になり、円覚寺に来てから修行時代には、
足立老師のお伴をして、よくうかがったものです。
管長に就任してからも、ちょくちょく寄らせていただいていました。
私のことも、よくしていただいて、いつも店頭には私の出した書籍を並べておいてくれていました。
いつうかがっても、お店にお坐りになっていたお姿が思い浮かびます。
最近の仏教書関係のことをうかがっても、いつも的確に答えてくださっていました。
昨年の秋頃に、この頃ご体調がよくないと聞いていましたが、今年の二月にお亡くなりになったのでした。
今年いただいた、年賀状を探し出してみると、印刷した文言のほかに、ご本人の手書きで、
「こころころころ48ページの『ありがとう おかげさま』こころに染みました。
ありがとうございます」と記されていました。
恐らくご体調はよくない頃のはずです。
多くの年賀状を出されながらも、そんな一言を添え書きしてくださるご親切、
病に罹りながらも私如き若輩者の本を読んでくださっていることに、感激しました。
改めて『こころころころ』48ページを開いてみてみました。
こころは、悲しいかな、ころころと移り変わりますが、
「ありがとう おかげさま」というこころ、
大事にしたい心であります。
横田南嶺