岸田ひろ実さんと対談
昨年の夏期講座の講師をおつとめいただいた、ミライロの岸田ひろ実さんと対談をしました。
岸田さんは、ご結婚されて長男を出産、知的障害を抱えていることがわかりました。
その後、主人を突然亡くされ、一人で働きながら、娘さんと息子さんを育てている最中、
ご自身が病に倒れ、下半身麻痺となるという壮絶なご体験をされています。
しかしながら、実に娘さんともども、明るいご性格で、すばらしい母娘です。
岸田ひろ実さんとご息女の奈美さんとが円覚寺にお越しくださり、奈美さんが司会進行役で行いました。
困っている人、苦しんでいる人に、どのように接したらいいのか、
人を信じること、愛することとはどういうことか、などについて語り合いました。
最後に、奈美さんからの質問で、私の苦手なことは何ですかと聞かれました。
即座に、「講演と対談と、挨拶など人前で話をすること」と答えました。
意外に思われたのか、全然そのようには見えませんと言われました。
しかし、講演にしろ、法話にしろ、毎回苦痛でしかありませんし、
終わった後には、いつもしまったと後悔してしまいます。
ただ、私などは僧侶であり、世間様のお布施によって暮らさせてもらっていますので、
このような苦手なことに堪えて努力をしていないと申し訳ないと思うのです。
だから、敢えていやなことと思っても、ご依頼があれば、引き受けていたします。
もちろんのこと、人さまの前では、嫌な素振りは全く見せずに行っていますと話しました。
それでも、おかげさまで、結構な数の講演を行っていますと、
終わった後の後悔する時間が短くなってきました。
後悔は必ずするのですが、この頃は演台から降りて、控え室に戻るまでの間のみになって、
控え室では、もはや講演のことも、後悔することも忘れているという有様です。
僧侶がお布施によって暮らしているというだけでなく、
お互い人間は皆誰しも、他の生き物を犠牲にして生きているのですから、
少々苦手なことに堪えながら努力して暮らしていないと申し訳ないと思うのですと、お話したことでした。
横田南嶺
(写真は、岸田ひろ実さんと奈美さんと)