一日一語 55
円覚寺の修行道場の本堂には、朝比奈宗源老師の揮毫による「大事因縁、
山よりも重し(大事因縁重似山)」という全紙の軸が掛けられている。
毎朝、この大幅を目にするたびに、自らの襟を正す思いになる。
この句は、江戸時代の高僧 一絲文守(いっしぶんしゅ)、仏頂国師の
漢詩の言葉である。一絲禅師の詩には、「大事因縁、山よりも重し、僧と
なって了せずんば又何の顔(かんばせ)ぞ。悲しむべし、近世聡明の種、
老却す、推敲両字の間」とある。
この詩は、「大事因縁は山よりも重いものである。出家して僧侶となった
からには、この大事因縁を成し遂げなかったら、いったい何の面目があろうか。
ところが残念なことに、この頃の聡明な連中は、漢詩を作ることばかりに熱中して
文字の推敲にばかりにとらわれていつの間にか、老いの到ることにも
気づかないでいる」というほどの意味である。
大事因縁とは何であろうか。最も大事な因縁、この世に生まれてきて
最も大事な因縁、この世に生まれてきて最も大事な勤めという意味に
とっておこう。森信三先生は、「われわれ人間は、お互いに『天の封書』を
いただいてこの世に生まれている」と仰せになっている。
そうすると大事因縁とは、銘々の天の封書とみてもいいだろう。
私のように僧侶であれば、修行して悟りの目を開くことにほかならない。
・・・。
{月間誌『致知』2016年1月号 横田南嶺老師 連載「禅語に学ぶ」より}