ないことのおかげ その2
大興寺様で法話の折に
ないことのおかげを話して、
台風が来なかった事、自然災害のないこと
電車の遅延のないことのおかげなどを
例にしました。
そして、ついでに
妙好人(みょうこうにん)の因幡(いなば)の源左(げんざ)さんの逸話を話しました。
源左さんという方は、なにがあっても
「ようこそ、ようこそ」といって感謝される方でした。
あるとき、出かけて帰りがけに
夕立雨にあって、びしょ濡れになってしまいました。
それを見た寺の和尚さんが
さすがの源左さんも、愚痴でもこぼすかと思ったか
「源左さん、よう濡れたのう」と声をかけると、
「ありがとうござんす。
和尚様、鼻が下を向いているで有り難いなあ」と
答えたといいます。
これは、大変な言葉であると思っています。
私達は、鼻が下を向いていることなど、
当たり前に思っています。
しかし、考えてみると、鼻の穴が上を向いて
ついていたら、雨がふると雨水が皆鼻に入って大変です。。
鼻の穴が、上向きでは
「ないことのおかげ」なのであります。
ないことのおかげに気づく事は実に困難です。
しかし、これに気づくことができれば、
この世の中は有り難いことに満ちていることが分かるのでしょう。
源左さんは、何があってもいつも「ようこそ、ようこそ」と
言っては喜んでいたと言います。
それでも、決して幸せなことばかりだったのはありません。
長男と次男を、たて続けに亡くされています。
長男が亡くなった時に、
まわりの人が「淋しいでしょうと」というと
「早く浄土にまいらせてもらって有り難い」と言い、
更にご次男が精神に異常を来してしまった時に、
まわりの者が、「源左さん、お気の毒に」というと
「ようこそ、ようこそ、万蔵(次男の名)は楽にしてもろうてのう」と
答えています。
妙好人の信心に深さには恐れ入るばかりです。
横田南嶺