行住坐臥(ぎょうじゅうざが)
養生ルネッサンス講座という勉強会の皆さんの坐禅会を行いました。
養生ルネッサンス講座とは、若い医師の方を中心に、鍼灸師、指圧師、歯科医などの方々が集まって、
病気にならないように「養生」について学ぶ会です。
八月に、私も禅について講義させてもらいました。
そのご縁で、円覚寺で坐禅の実習をしてみたいという話がもちあがり、
私も、養生について真剣に学んでいる方々からの熱心なご依頼でしたので快く受けて行いました。
二時間の講座のうち、一時間は座学で、坐禅は何の為にするのかなど、講義をしました。
次の一時間は、実習で、私が坐禅指導を行いました。
普段、私が直接坐禅指導をする機会は、ほとんでありませんが、
気楽に「いいでしょう」と引き受けてあげたのでした。
この会に集まる方々は、社会の第一線で働いている人たちですので、
ただ単に足を組んで、痛いのを我慢してじっと辛抱するだけの坐禅では、あまり意味が無いかと思って、
私なりに工夫してみて、禅を「行住坐臥」に分けて実習してみました。
まず、はじめに五分ほど、足首をほぐし、足の裏を自分でマッサージして
足の裏の感覚を取り戻してもらうようにしました。
そして、「行」は、歩くことを行いました。
十五分ほど、歩行禅を行いました。前半は足の裏の感覚だけに意識し集中して歩くことを行い、
次に呼吸に合わせて、息を吸って足を上げ、息を吐いて足を下ろすということに意識にしてゆっくり歩くことを行いました。
終わった後の感想では、この歩行禅が良かったという声が多かったのでした。
次の「住」は、立って行う「立禅」を十分間行いました。
仙骨の運動をして姿勢を正して、ただ「立つ」禅です。
その時に足の裏を意識して、足の裏から息を吸って吐く「足心呼吸」を実習しました。
それから「坐」、はじめの「坐」は椅子禅を実習しました。
椅子に坐ることがほとんどの皆さんですので、
椅子に坐って腰を立てて、四・七・八呼吸法を実習しました。これを約十分間行いました。
そして「臥」、仰臥禅、横になって、床に身をゆだねて、全身を脱力させるように、
ガイダンスを行いながら、静かに十分間横臥しました。
大地に身を委ねて大地に溶け合ってゆくような感じで横になるのです。これで自然と身体が調うのです。
それらを終えて最後の十間分で、座布団に坐って、丹田呼吸を行いました。
いわゆる「坐禅」です。身体の中にたまった、様々な感情や知識や、悪いものをすべて息と共に吐き出し、
きれいな空気をお腹までいっぱいに吸い込むという呼吸を実習しました。
ただいきなり座布団に坐っても、足の痛みに耐えるだけになりますし、
日常の暮らしの中に生かせるように、「行住坐臥」の禅を実習してみたのです。
私にとっても初めての試みでしたが、参加者の感想がみなとても良かったようでした。
あまりいいので、今後も継続してほしいと頼まれてしまいました。
実はこの「行住坐臥」の禅、皆さんに指導していて、指導している私自身が、
一番身体が調ったようで、一時間ですっかり疲れがとれ、すっきり爽やか、楽になったという思いでした。
そのあと鉢の木さんで、精進料理をいただきながらの懇談会を行いました。
皆さんから、感謝されて、ご馳走にもなり、そして疲れもとれてすっきり爽やか、
一番幸せだったのは、私自身だったのでした。
ああ、有り難し。
横田南嶺