忘れられない言葉
川村先生にはたくさんの著書がありますが、新しいのは、今年の四月に発行された『忘れられない言葉 30のまなざしと仏の教え』という本であります。
この本を買って読んでいました。
読むと実にあじわいが深いのです。
禅宗の者なのに、なぜ浄土真宗のものをと思われるかもしれません。
もっとも私はお釈迦様の御教えを学んでいるのです。
お釈迦様の御教えは、インドから中国へと伝わって、禅という独自の教えに発展しました。
お釈迦様の御教えがもとになってお浄土の教えとなっています。
根底にはお釈迦様のお慈悲の心があるものです。
その根底となるお釈迦様のお慈悲の心をいただきたいと思って仏道を学んでいます。
私は中学や高校生の頃から、金子大栄先生、曽我量深先生、米澤秀雄先生などの著書に親しんできました。
信国淳先生の本も座右の書でありました。
また浄土宗の椎尾弁匡先生の本もよく学ばせてもらいました。
それだけに今も御浄土の方の本を拝読するのは楽しみであり、禅では足らないところを学ばせてもらえるのです。
この『忘れられない言葉』を読んで、とても良い本だとしみじみ思いました。
この頃は本の値段も高くなっていますが、実にお手頃な価格にしてくださっています。
東本願寺出版から出されています。
出版社の温かいお心が伝わってきます。
そこで、私はこの夏にお世話になった方への施本にしようと思って、この川村先生の『忘れられない言葉』を少々まとめて購入させてもらいました。
川村先生を通じてお願いしたのでした。
一番はじめに「やさしい薫り」という章があります。
この本を貫いているのが、この「やさしい薫り」だと感じます。
やさしい言葉で深い教えを伝えてくださっています。
有名人の言葉から、川村先生のお身内の方、メール相談の方までいろんな方の言葉が珠玉にように載せられています。
「心の顔」という章には漫才師のオール阪神・巨人さんの言葉があります。
アナウンサーのお仕事もなさっていた川村先生が、とある祝賀会の司会を依頼されていた時のこと、「ご挨拶させてもらいたいのですが」と言って見えたのが、オール阪神・巨人さんだったというのです。
「一日のはじまりは、まず心を開くことやと思っています。その心を開く合図が挨拶やと思っています」と仰ったという話です。
川村先生は、その話から、
「元来「挨拶」という言葉は禅宗の「一挨一拶」から来ているといわれます。
「挨」は相手に近づくこと、「移」はさらに踏み込んで相手と向き合うこと。禅僧同士が山中で出会ったとき、互いに問答を交わし、相手の悟りの深さを確かめ合う行為でした。単なる礼儀作法ではなく、「あなたと心を通わせたい」という行動だったのです。」
と解説してくださっています。
「足の裏を拝みながら」という章もあります。
足の裏の話は円覚寺の夏期講座でも拝聴しました。
川村先生がとあるお寺の講習会に参加された時のことです。
講師の先生が、「仏教の聖典を開け」とか、「仏法を聞きなさい」とはおっしゃらずに突然、「靴下を脱ぎなさい」と言われたという話です。
川村先生は、「ストレッチでもするのかな」と思ったそうです。
すると先生は、「足の裏を見なさい」と言われました。
そこで坂村真民先生の詩を知るのであります。
「尊いのは足の裏である」という題の真民先生の詩であります。
尊いのは足の裏である
尊いのは
頭でなく
手でなく
足の裏である
一生人に知られず
一生きたない処と接し
黙々として
その努めを果してゆく
足の裏が教えるもの
しんみんよ
足の裏的な仕事をし
足の裏的な人間になれ
頭から
光が出る
まだまだだめ
額から
光が出る
まだまだいかん
足の裏から
光が出る
そのような方こそ
本当に偉い人である
「足の裏は文句を言わずに、ずっとあなたを支えてくれたのだ。その足の裏にお礼も言えないでどうするのか」と言われるのです。
夏期講座で川村先生は「私たちは皆、賢くなりたい、立派になりたい、人に良い話を聞かせられるようになりたいと思っています。立派な僧侶になろうとしているのです。
しかし、その前に、自分を支え続けてくれた足の裏に感謝することができているのか。そこで「まず足の裏を拝め」と教えられたのです。」
と語ってくださっていました。
『忘れられない言葉』の中にも、この話が詳しく丁寧に説かれています。
本の終わりの「エピローグ」に川村先生は
「この本を、どのような思いで読み終えられたでしょうか。
すべて読み通してくださった方も、途中でふと立ち止まった方も、ある言葉のところだけを、何度も読み返された方もおられるかもしれません。
仏教の言葉は、ときに難しく感じられます。
けれども本来、仏の教えは特別な人のためのものではなく、悩み、立ち止まり、迷いながら生きる私たち一人ひとりに、静かに届けられてきた教えの言葉でした。」
と書かれています。
私のために「やさしい薫り」と共に届けられる言葉の数々が綴られている本であります。
多くの方に「やさしい薫り」に触れてほしいと願います。
横田南嶺