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臨済宗大本山 円覚寺

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2026.05.17
今日の言葉

いつも穏やかな心で

先週の日曜日五月十日、毎日新聞の日曜クラブに連載されている海原純子先生の「新・心のサプリ」を読んでいました。

そこに、「4月下旬にこのコラムをまとめた文庫本が刊行された。文庫化は3冊目だが、今回は大幅に加筆して、最近のエッセーも入れ込んでアップデートしている。」と書かれていました。

文庫本が出版されたのを知って、買い求めなければと思っていたところ、海原先生からその本をお送りいだだきました。

文庫本の扉にはため書きもしてくださっています。

ご親切なことに恐れ入ります。

また更に手書きのお手紙も添えられていて恐縮します。

海原先生に円覚寺の夏期講座にお越しいただいたのは、二〇一五年のことですから、もう十年以上前のことになります。

私が、毎日新聞の「新・心のサプリ」を読んでいて感銘を受けて是非お招きしたいと思ってお願いしたのでした。

そのことがご縁となって私は日本肺癌学会学術集会というところで、講演をさせてもらうことになりました。

これも十年以上前のことになります。

私は「仏教の死生観」と題してお話させてもらったのでした。

私は海原先生のコラム記事で、イチゴジャムの話にとても感銘を受けました。

そのことをお話申し上げていました。

こんな話です。

ある方からいただくイチゴジャムは格別においしいというのです。

その方というのは末期の癌患者だそうで、かつてのお仕事をやめて今は自宅でできる仕事をなさりながら毎年イチゴジャムを作ってくださるのだそうです。

それが他で頂くものとは違う、とても美味しいというのです。

何人かの仲間もそう感じていて、いったいどんなレシピなのだろうかという話題になりました。

きっとなにか特別な砂糖でも使っているにちがいないなど話していました。

その後本人に確認すると、何も特別な砂糖も使ってはいない、どこのスーパーにでも売っている普通のお砂糖だと言われたという話です。

なにがこんなに味が違うのか、海原先生は、この方は末期の癌の患者ですから、もしかしたら来年のジャムは作れないかも知れないという思いで、心をこめているからではないかという話でした。

もう今年で最後かもしれない、今こうしてジャムを食べてもらう方に喜んでもらいたい、そんな気持ちが一層おいしい味を作り出しているのかもしれないというのです。

とてもいいお話で感銘を受けました。

そんなことをお伝えしたことを海原先生も覚えてくださっていて、その肺癌学会に招かれた控え室で、なんとイチゴジャムをいただいたのでした。

その方のお作りになったジャムだというので、驚いた事を思い出します。

日本肺癌学会で講演したのがよかったのか、更に世界肺癌学会でも講演させてもらいました。

そのことがご縁となって、医療関係の方から死生観について講演を頼まれるようになりました。

有り難いことでありました。

新聞のコラム記事を読んだことがきっかけとなって、このようにご縁が広がったのでした。

今回の本は『いい気分を貯めて暮らしたい』という題です。

本のオビには、「心の見方を変えると人生が変わる!

心療内科医が教える、毎日を〈いい感じ〉ですごす52のヒント。

気持ちが落ち込んだときに回復するには」

と書かれています。

本をいただいて、はじめにパッと開いたページに、「足音と心」という見出しがありました。

「乱暴な歩き方をする時の心は乱れている」というのです。

また「コップをテーブルに音をたてて置く人の心は穏やかではない」とも書かれています。

海原先生ご自身、「子どもの頃、床を歩く時の音や食器をテーブルに置く時の音、ドアを閉める時の音はよく注意された。多分、それは音がうるさい、というより、そうした音をたててしまう動作、さらにはその動作の背景にある意識についての懸念からの注意だったのだろう。」

という教育を受けてこられたのです。

私たちの修行道場でも足音はよく注意をされるものです。

また長く坐禅をしてくると、足音が自然と静かになり、ほとんど消えてゆきます。

足の感覚が鋭敏になっていくからだと思います。

また食事の時に音を立てないようにということもよく注意されますが、これもひとつひとつの動作が丁寧になるからであります。

また少しページを開いていくと、

「心のいら立ちをなくすには」という見出しが目に入りました。

はじめに「心が泡立ちいら立つのをなくすベストな方法をご存じだろうか。」と書かれています。

だれでも知りたいことであります。

海原先生は「私が知っている究極の方法をご紹介したいと思う。とても単純。でも、常に心をそこに向けていないと実行できない方法だ。」というのです。

どんな方法かというと、「それは他人との比較ではなく、常に「自分の進歩」「自分の進化」に焦点をあてて過ごすことである。」と書かれています。

そうしていると、「どんなことでもいいのだが、自分が昨日より少しでも進歩したか否かを考えながら過ごすことで雑念が消える。」というのです。

森信三先生に、「一切の悩みは比較より生じる。
人は比較を絶した世界へ躍入するとき、始めて真に卓立し、所謂「天上天下唯我独尊」の境に立つ。」

という言葉があります。

その通りであります。

多くの悩みは、他人やまわりとの比較から来ています。

海原先生もよくストレッチをなされていると書かれていますが、私なども毎日真向法を行っています。

ストレッチに似たものです。

これも自分自身の状態だけを確認するのです。

人と比べることはありません。

昨日よりもほんの少しでも柔らかくなっている、つまりがとれていると感じたら幸せなのです。

坐禅はまさに他人との比較のない世界です。

自分の呼吸を自分でみつめて味わうのです。

『いい気分を貯めて暮らしたい』という題のこの本には素晴らしい言葉がたくさんちりばめられています。

いい気分を貯めて穏やかな心で暮らしたいものです。

 
横田南嶺

いつも穏やかな心で

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