法話と御朱印
円覚寺では、この三日から五日まで国宝舎利殿の特別公開を行っていました。
これは、もともと私が管長に就任した年に、ちょうど舎利殿の屋根の改修が終わって、それを記念して行ったのでした。
国宝舎利殿は、ふだんは公開されていませんのでお参りすることができません。
屋根の改修には国の補助もいただいていましたので、多くの皆様にもお参りしていただこうということになったのでした。
それから次の年も五月の連休に公開し、また次の年も公開してと続くうちにすっかり定着してしまいました。
その間に御朱印が喜ばれるということで、舎利殿の特別御朱印を行うようにしたのでした。
それから近年は、ただ建物の公開だけではなく、坐禅会や法話会もした方が良いだろうということで、法話会や坐禅会も開催するようになりました。
更に最近は子供の日には子供向けの坐禅会も行うようになっているのであります。
私はもとより年中無休ではたらくのが当たり前と思っているのでいいのですが、お寺に勤めてくださっている方には連休の休みを返上してもらうのでたいへんなことでもあります。
三日の日には、午前中に法話を致しました。
三十分ほどの短い法話ですが、その短い時間で「心の調え方」と題して『天台小止観』に説かれている二十五方便についてお話させてもらいました。
そのあと一時間坐禅の時間となります。
私も皆さんと一緒に坐禅をさせてもらうようにしました。
円覚寺教学部の草野元彰和尚がご指導くださいました。
一時間の坐禅というので、一時間しっかり坐ろうと思って臨んだのでしたが、三十分は体をほぐす体操をして、その残りの三十分を十五本ずつ二回に分けて坐りました。
初めての方でも無理なく坐れるように工夫されていました。
はじめの三十分の体操は草野和尚が丁寧にご指導されてとてもよいと感じました。
最初に足首や足の指から始めてくれていました。
草野和尚は修行道場で行われている様々な講座やイス坐禅にも熱心に参加してくれているので、よく学んでくれています。
そしてお人柄がとても温厚で親切なので、丁寧に指導してくださいます。
先導してくださるお声も柔らかくて、そのお声を耳にしているだけで体がほぐれてくるように感じます。
足首、足の指、そして足の裏を調えてゆきます。
それから肩周りをほぐしてゆきました。
手をキツネの形にして肩周りを回すというのもよく出来ていました。
そうして三十分ほどで体を調えて、坐禅に入りました。
皆さんと坐るというのはとてもよいものです。
自然とみんなが坐ろうという気持ちになっているので、場のよい空気ができています。
その中に自分の身を委ねて坐ることができました。
そうして終わったあとに玄関で皆さんをお見送りさせていただきました。
三十分の法話と一時間の坐禅とで皆さんも喜んでくださっている様子が伝わってきました。
午後からは御朱印を書くことにしました。
これはホトカミの吉田亮さんのお話を聞いて始めたものであります。
私がふだん御朱印を書くことなどできないのですが、連休の間は外に出かけることもありませんので皆さんに書いてあげようと思ったのでした。
私は禅語を書くようにしています。
日日是れ好日、仏心光明の中、本来無一物、日出で乾坤輝くという四つの禅語を用意して、選んでもらうようにしました。
今回それに私がお地蔵様さまの絵を描いて、そこに無事と書いた御朱印も作ってみました。
それぞれその場でその方の目の前で書いて差し上げるようにしました。
禅語を書きながら少しお話できるのも有り難い事です。
さてそのように四つの禅語と、お地蔵さまの絵の入ったのを選んでもらうようにしたのですが、大半の方がお地蔵さまを書いてほしいと頼まれました。
それで下手なお地蔵さまの絵をたくさん描かかせてもらいました。
お地蔵さまを描くにも御朱印帳になんの下書きもせずに描きますので、それぞれ一枚ずつ表情が違います。
そのそれぞれ違うのがまたあじわいがあるものです。
自分でもどのようなお顔になるのか分からないのです。
筆を運んでいると自然とできあがります。
ただやはり大事なのは、その描くときの心を微笑みの心にしておくことです。
午前中の法話で「一粒でも播くまい、ほほえめなくなる種は、どんなに小さくても、大事に育てよう、ほほえみの芽は、この二つさえ、絶え間なく実行してゆくならば、人間が生まれながらに持っている、いつでも、どこでも、なにものにも、ほほえむ心が輝きだす。」という松居桃楼さんの言葉を紹介したのでしたが、まさにこの微笑む心の実践でもあります。
特にお地蔵さまのお顔を描くときには集中しますので、お話する余裕がないのが残念でありました。
二時間ほどかけて五十名の方に描いて差し上げました。
それでもその合間にいろいろお話をすることもできました。
多くの方が毎日YouTubeを聞いていますと言ってくださいました。
なかにはかなりの遠方から見えたという方もいらっしゃいました。
関西から車で見えたという方もいらっしゃり驚いたのでした。
なかには今年の和歌山県新宮市の御燈祭で私の姿を見たのだという方もいらっしゃいました。
これにも驚きました。
いつも円覚寺に通ってくださる方もいらっしゃりお話ができるのは有り難いことでした。
いろんな方の深い思いに接することができました。
皆さんと坐禅をして、御朱印を書いてと有り難い一日となりました。
横田南嶺