中丹田
「下腹部の、臍の下にあたるところ。ここに力を入れると、健康と勇気を得るといわれる。」と解説されています。
丹田はおへその下でありますが、上中下あると言われています。
上丹田、中丹田、そして下丹田であります。
一般に丹田と言われると、この下丹田を指す場合がほとんどであります。
上丹田や中丹田はあまり言われることは少ないと思います。
上丹田は、眉間や額のところであり、中丹田は胸のあたりとされています。
井上欣也さんに毎月稽古をつけてもらって、毎回いろんなことを教わるのが楽しみです。
先日は、中丹田について教わりました。
井上さんが、ご自身のnoteに、中丹田について書かれていたのを拝読したからです。
なかなか文章で読むだけではわかりにくいので、直に教わったのでした。
これが文章では表現できないのですが、私も全く初めて経験する動きで感動しました。
背骨や肋骨がとてもよく動くのです。
その動き方も初めてのものでした。
生きる喜びというのはやはりなんといっても新しいことを知ることや、新しい体験をすることであります。
私もかなり身体の研究をしてきたつもりですが、井上さんから学ぶことは毎回とても多いのであります。
井上さんとの出会いによっても大きな変化を経験することができました。
井上さんとも話をしたのですが、上丹田、中丹田、下丹田とありながら、一般に論じられるのはほとんど下丹田であります。
私もこんなに中丹田について学んだのは初めてでした。
岡田虎二郎は、
「丹田が神性の殿堂である。殿堂が立派にできて、神性が伸び、ほんとうの人間ができるのである。人間に高下をつけると、頭を主とした人が一番下の人である。智識を詰めこむことばかりしていて、頭ばかり大きくなって、まるでピラミッドを逆様にしたような倒れやすい人になる。人まねくらいはできるが創作も発明も大事業もできない。
次に胸を主とした人、これが我慢の人である。日本古来えらいといわれた人にはこの種の人が多いが、こんなことではまだだめである。下腹を中心とした人、神性の殿堂を築いて神性を伸ばした人、これが上の人である。この人こそ心身の遺憾なき発達をとげ、力はその内部よりわき出で大安楽の心境をつくり、己れの欲するところをなして、のりを越えざるところの人になるのだ。静坐はこの上の人となるために、物理的に最も安定した姿勢をとるので、私の示すところと一毫の違いがあってもよろしくない」
と言っています。
中丹田というと胸のあたりなのですが、だいたいこのように頭や胸よりも下腹を充実させることが強調されるのです。
中丹田の動きを学びながら、私はふと坂本謹吾さんの「坂本屈伸道」を思い起こしました。
坂本屈伸道などは、今日あまり知られていないかと思われますが、『弾力性健康法 坂本屈伸道』という本を私は持っています。
この屈伸道は、渋沢栄一が行っていたものでもあります。
渋沢栄一が八十才を超えてから行っていて、長寿を保った原因のひとつでもあります。
坂本謹吾は、体の中でもお腹に骨がないことを不思議に思いました。
頭には大切な脳を守るための頭蓋骨があります。
胸には心臓や肺を守るために肋骨で覆われています。
腹にも大腸や小腸や肝臓や脾臓など大事な臓器がたくさんあるのに、骨で覆われていません。
坂本謹吾は考えて、これは屈伸するためだと思ったのでした。
息を吐きながら体を屈めてゆき、吸いながら体を伸ばして首をすこし反らすようにするのです。
実に単純な動きですが、背骨がよく動くのです。
背骨を動かすことはいいものです。
体全体がゆるみます。
それから坂本謹吾は凹ますことを大事にしています。
腹を凹ますことです。
内臓を考えても心臓や肺は凹むはたらきが重要です。
お腹の中は重要な臓器がたくさんあります。
体に必要なものは取り入れ、不必要なものは出すようにするには、どうしても静止しているのではなく、凹ます動きが必要なのです。
お腹を凹まし、また膨らますのが重要なはたらきです。
屈伸道のやり方は、はじめに大自然の恩恵に感謝して頭を下げます。
それから、背骨を丸くするように前へ屈みます。
無理せぬように屈めるだけ屈むのです。
両手は股の上において両肘が外の方に向きます。
伸ばした体を元の位置まで伸ばし、少し元の位置よりも首を後ろに反らせます。
そしてまたお腹をやわやわとへこめるだけ凹ませるのです。
凹めたお腹をもとのように戻します。
この繰り返しなのです。
この本には野口英世も屈伸道を褒めている言葉が書かれています。
この屈伸道は腹部だけの運動ではなく、横隔膜を上圧し、その運動によって腹部をも運動せしめるので、体全体の運動になっていると讃えています。
特に腹を動かすには、欧米の体育などによい方法がないけれども屈伸道は完全な方法だと書かれています。
屈伸道は、有益な健康法であり、治病上にも大いに有効だというのです。
井上欣也さんに中丹田を教わって、中丹田を起こしたりくぼませたりする動きをしながら、ふと坂本屈伸道の屈伸の動きを思い出したのでした。
そして坂本謹吾の屈伸道の本を久しぶりに読み返していました。
体の探求は興味ふかいものです。
学べば学ぶほど奥深く、体については分からないことばかりだと実感させられます。
またこうして学んだことを修行僧やイス坐禅の会なので還元できるのも楽しいものです。
横田南嶺