今ここが奇跡
これで四回目となります。
昨年にも開催しましたが、昨年は雨となってしまいました。
例年は、円覚寺の裏にある六国見山に登ります。
これは「地球46億年を感じる旅」というもので、地球の四六億年を凡そ4,6キロの道を歩きながら、感じてゆくのです。
近藤瞳さんが、2016年、イギリスのシューマッハカレッジで体験したディープタイムウォークをベースにして、近藤さん独自の体験談・哲学・心理学などなど、あらゆる視野を投入して創作されたものです。
この体験によって、「今ここに自分が生きて存在していることが、どれだけ奇跡に溢れているのか」を実体験してゆくのです。
地球カレンダーというのがありますが、地球の四六億年を一年間のカレンダーになぞらえてみるのです。
一月一日は、四六億年前地球の誕生であります。
誰も見たわけではないのですが、いくつもの隕石がぶつかって集まってできたということです。
今の地球は平均十五度という気温なのですが、そのころはとても熱かったのでした。
地球の自転の話はいつも興味深く思います。
近藤さんは地球で一番速い乗り物は何かと問われました。
私などは新幹線か飛行機を思い浮かべます。
スペースシャトルという答えもありました。
一番早い乗り物は地球です。
一秒で三十キロメートルの回っているのです。
ただその地球があまりにも大きいので、その速さを感じないのです。
今は二十四時間で一周していますが、地球ができた頃は、もっと早かったそうで、5,6時間で回っていたそうです。
それからそのはじめの頃は二酸化炭素、アンモニア、硫黄などが充満していてとても臭かっただろうということです。
熱い、早い、臭いが地球でした。
四五億年前が一月十二日です。
月と地球が分かれました。
これも隕石がぶつかってできたのでした。
衝突し破壊され、そして新しい何かが生まれてゆくのです。
破壊と再生という言葉を、近藤さんはよくお使いになります。
破壊と再生の繰り返しであります。
「ストレスはえさ」、これもよくおっしゃいます。
いろんな破壊や衝撃があり、ストレスもありますが、それをいかに生きるエネルギーに変えてゆくかです。
それから地球は地軸が曲がっています。
23,4度傾いています。
この傾きのおかげで季節ができているのです。
満天の星空を仰いでも、それは宇宙の三%に過ぎないのだそうです。
九七%は見えていません。
人間の潜在意識が九七%で、顕在意識は3%に過ぎないのです。
分からないこと、分かっていないことの方がはるかに多い、そう思って生きる方が気が楽になります。
四一億年前の二月九日、水ができました。
大陽と地球の距離が一億五千万キロという実に精妙なバランスのおかげなのです。
近ければ熱くて蒸発しますし、遠ければ凍ってしまいます。
地球の七十%は水で掩われています。
人間の体もたしか6割は水分で、生まれた頃は七〇%は水分だったのでした。
三八億年前、二月二十五日、最初の生命ができます。
微生物です。
このたくさんの微生物のおかげでお互いは生きています。
大腸の中だけでも一〇〇兆もあるというのです。
二七億年前の五月三十一日、酸素ができました。
酸素は人間にとって必要な、よいものと思いますが、単体では毒です。
しかし、微生物はこの酸素を取り入れてエネルギーに変えていくようになったのでした。
二四億年前の六月二十四日、氷河期となりました。
マイナス五十度にまでなっていました。
二一億年前の七月十日、真核生物ができました。
真核生物とは、核(DNAを包む膜で囲まれた構造)をもつ細胞でできている生物のことです。
一一億年前の九月二十七日、多細胞生物ができました。
六億年前の一一月一四日、オゾン層ができました。
これはわずか三㎜だそうです。
五億年前の一一月二十日、海の中で植物ができました。
なまこやくらげのようなものもできました。
四億二千年前、一一月二八日、今まで海の中ですが、両生類ができました。
海から陸にあがったのでした。
三億年前の一二月三日で、虫が生まれました。
その頃の虫はとても大きかったようです。
今の空気中の酸素の割合は、二一%ですが、そのころは三十%以上もあったのでした。
一メートルものムカデがいたというのですから、驚きです。
二億五千年前の一二月一三日、恐竜がでます。
恐竜が地上を闊歩し、哺乳類はねずみのように小さくて、夜に行動していたのでした。
六五〇〇万年前の一二月二五日、隕石がぶつかって大きな爆発と熱とで恐竜は滅びました。
一二月二六日、鳥がでます。
四〇〇万年前の一二月三一日、アウストラロピテクスが出ます。
人類の祖先です。
そしてホモサピエンスが生まれます。
一二月三一日の23時40分です。
23時58分52秒から農耕牧畜が始まります。
23時59分30秒で、仏教やキリスト教が起こります。
23時59分58秒で、産業革命が起きて現代の文明になります。
わずか二秒です。
その間に石炭や石油を使ってこれだけの文明を築きました。
またその分環境も破壊してしまいました。
近藤さんが伝えてくださったことは、三つです。
第一に自分自身が奇跡の存在であることです。
四十六億年の奇跡がお互いの命です。
いるだけで素晴らしいとおっしゃってくださいました。
それから次に自分のペースで生きることです。
今回もはだしで歩いたのですが、はだしで歩くと、自分のペースになります。
直観を大事にして欲しいともおっしゃっていました。
三つめはすべてのものはひとつであり、つながっているのだということでした。
自分という分離されて独立したものはないのです。
地球は四六億年、宇宙は一三八億年ですが、お互いの命は138億年の命なのです。
午後からは最近の近藤さんの旅の話を聞かせていただきました。
これも驚きのお話ばかりなのです。
そんな話をうかがっていると、今ここで出会っていることが奇跡だと実感されます。
最後にみんなで「ありがとうございます」と言って終わりました。
有り難うは、有ること難いで奇跡のことです。
ございますはいまここにあることです。
いまここが奇跡、ありがとうございますとみんなで言って終わったのでした。
今回も藤田一照さんが参加してくださいました。
井上欣也さんも参加してくれました。
それからその前日私が知人の家を訪ねた折に、その家の庭ではだしで庭仕事をしている青年を見ました。
知人に聞くとその青年はいつもはだしでいるというのです。
面白い青年だと思って声をかけて、この近藤さんのワークショップにも参加してもらいました。
朝円覚寺に来てもらうのに、門の外で待っていると、青年ははだしでやってきました。
街をはだしで歩いてきたのです。
今の世に珍しい青年だと思いました。
こんな青年にも出会えて有り難いことでした。
横田南嶺