松本の神宮寺でイス坐禅と法話
ここ数年、毎年お参りしています。
今回はイス坐禅と法話の会を催してもらいました。
有り難いことであります。
法話の前日に松本に入りました。
まず松本市にお住まいの野口法蔵様を訪ねました。
野口法蔵様の近著『からだで悟る!』には、「発刊に寄せて」という一文を書かせてもらいました。
二年前に初めてお目にかかり、チベット式の五体投地の方法を教わったのでした。
それ以来、毎日百八回の五体投地を繰り返しています。
毎日欠かさずに行って、もう二年となります。
チベット式の五体投地というのは、実際にどのように行うものなのかを教わりに行ったのでした。
教わったことをまずは二年間一日も休まずに続けてこれたのは幸いであります。
教えてくださった野口様にまず御礼申し上げたのでした。
まだまだ続けてゆこうと思っています。
またその日には有り難いことに、奈良の吉野の柳沢阿闍梨もお越しくださっていて、親しくお話をさせてもらいました。
これは貴重な体験でありました。
行者にお目にかかれたという思いでありました。
淡々とお話になるのですが、行に対する決意、熱意、そして喜びがあふれていらっしゃいました。
行をするというのは、こういうことなのかと改めて感じ取ることができました。
松本市内に一泊して、早朝に神宮寺付近を散歩していました。
これも毎年の習慣です。
神宮寺のすぐ近くに、御射神社という神社があります。
こちらの神社が素晴らしいのです。
なんといっても気が澄んでいます。
そこにお参りしてその空気を吸うだけで、清められるのです。
今回は、午前九時半から一時間本堂でイス坐禅を行い、その後十一時から一時間神宮寺様にあるアバロホールで法話を務めました。
神宮寺様でのイス坐禅は初めてのことです。
一時間ですから、普段の都内で行っているのとでは半分の時間しかありません。
限られた時間でどのようにイス坐禅をするのか、あれこれ考えて準備しました。
まずは紙風船から始めました。
これはスポーツ庁長官の室伏広治さんが考案されたもので、私は藤田一照さんから教わりました。
これで体幹が鍛えられます。
そしてなにより良いのは、初めに紙風船を口で膨らませずに、ポンポンと下から天井に向けて打ちながら、膨らませるのです。
これで無心になれます。
気持ちがほぐれるのです。
どうしてもお寺に来て、さあ坐禅となると、皆身構えて緊張しています。
緊張していては深い坐禅になりにくいので、その緊張をとるのに紙風船はいいのです。
みんなでポンポンと子供になった思いで行います。
それから手首や肩をほぐす運動から始めました。
本堂には、七十名ほどの方がご参加くださっていました。
肩をほぐしながら、引き続いて、肺を広げる運動に移りました。
呼吸をするということをしっかり意識できるように、肺を上と下、左右、前と後ろにそれぞれ動きに合わせて広げてゆきます。
このワークを行うと、息を深く吸うことができるようになります。
深く吸えるようになると、深く吐くこともできるようになります。
それからイスに坐って、まず仙骨と座骨を確かめてもらいます。
仙骨がここにある、座骨がここにあってイスの座面に触れているのだと気がつくだけで、腰が立ってきます。
そうして足首を回し、足の指を小指から一本一本丁寧に回してゆきました。
足の裏を両手の親指で刺激して、更に拳でトントン叩いてもらいます。
それからテニスボールをつかって拇指球、小指球、踵の三点で床におしてゆきます。
これで足で床を踏むという感覚が養えます。
片方の足を終えたところで、もう片方の足と色を比べてもらうと、足をほぐした方と色が全く違っています。
みなさんもこの違いに驚かれて声をあげていました。
そうして簡単に首をほぐしてから、仙骨を立てて、頭頂も指で刺激して姿勢を作ってゆきます。
最後に腰を立てる運動を行ってようやく坐禅に入りました。
三十分ほどで姿勢を作ってゆきました。
今回も実に心地よく坐ることができました。
いつもの都内の坐禅もいいのですが、今回は何といっても神宮寺様の本堂の中にいるのです。
もうなにもしなくても本堂の中にいるだけでも十分なくらいです。
しかし、イス坐禅で体を調えると何が違うかというと、この本堂の空気と自分とがひとつに溶け込むことができるのです。
もっというと、山に抱かれた神宮寺様の清澄な空気と自分の呼吸とは一つに溶け合っていると感じることができます。
途中で立ち上がって、いつもの歩かない経行を行いました。
立ったままで足踏みをするのです。
この足踏みを呼吸に合わせて行うのもとてもいいものです。
息を吸いながら右足をすこしあげて、吐きながら下ろします。
息を吸いながら左足をあげて、吐きながら下ろします。
これをゆっくり交互に繰り返します。
イスに坐っているだけでやはり血流が滞りますので、このゆったりした動きは大事です。
しかも呼吸に合わせて行いますので、坐禅が深まります。
だんだん足を上げるのを小さくしてゆきます。
踵だけがかすかに持ち上がって息を吸い、踵を下ろしながら息を吐きます。
更に足は動かずにただ踵から息を吸い、踵から息を吐いてゆきます。
そうして二回目の坐禅に入ります。
丹田のあたりをトントンと両手で軽く叩いてもらって丹田に意識をもってゆきます。
腰を立てて二回目の坐禅です。
二回目の坐禅の前には、眼をほぐすワークを入れました。
これで坐禅が更に深まります。
かくして一時間のイス坐禅はあっという間に終わりました。
アンケートなどは行いませんでしたので、感想をお一人お一人聞くことはできませんでしたが、みなさんの美しい姿勢と、くつろいだ表情に、満足いただけたのではないかと察しました。
終わったあとに、一緒に参加してくれた和尚さん達数名に感想を聞くと、とてもよかった、イス坐禅に対する見方が変わったと言ってくれていました。
坐禅会を行っているお寺では、膝が悪くて坐が組めない人が片隅でイスに坐らせています。
そういう片隅に坐らせるのではなくて、イスで調えるのです。
いつもながら、私自身が深く坐れて全身が調いました。
この状態で法話できるのは有り難いことです。
法話はアバロホールで行いました。
みなさん熱心に聞いてくださいますので、とても話し易いのです。
こちらもあっという間に一時間の法話を終えました。
いつも感動するのは、神宮寺様の行事には多くの方が手伝っておられることです。
若い高校生の姿も見えます。
みんな谷川和尚のお人柄に惹かれてお寺に集いお手伝いをしてくださっているのです。
そんな姿に触れるにも有り難いことです。
今回は神宮寺に行ってみたいという修行僧も六名参加してくれていました。
みんな谷川和尚と神宮寺様の素晴らしい雰囲気に触れて感動していました。
有り難い神宮寺のイス坐禅と法話の会でありました。
横田南嶺