のびる
楊明時先生と帯津良一先生の監修による『健身気功 易筋経』(ベースボール・マガジン社)という書籍があります。
その本には、『易筋経』について、
「易筋経は誰が創ったのか、来歴は諸説ある。現存する文献から見て、多くは易筋経、洗髄経と少林武術などは達摩が伝えたと考えられている。
達摩は南天竺(南インド)の人で、紀元526年中国へ入り、やがて崇山少林寺に至り、 中国禅宗の初祖とよばれている。」
と書かれています。
更に、「易筋経が流伝する中で、 少林寺の僧侶は重要な役割をした。
史料によれば、 達摩の伝えた禅宗は主に河南崇山少林寺をその中心とした。
禅宗の修行はほとんどが静座を主とするため、長く座すと気血の流れが悪くなり、武術や導引術によって筋骨を活動させる必要があった。
このため、 六朝から隋唐年間に河南崇山一帯では武術や導引術が盛んにやられた。
少林寺の僧侶は筋骨を動かそうとして健身のため武術を練習し、この過程の中でたえずそれを直して質の良いものにし、 一種独特な武術による健身方式を作り上げた。
これが最終的に“易筋経”と名を定め僧侶の学ぶ武術中の秘伝となった。」
と書かれているのです。
「古来より 『易筋経』の書籍と 『洗髄経』は共に世に伝えられ、『伏気図説』 『易筋経義』 『少林拳術精義』 などともいわれた。
関係の文献資料からみると、 宋代に達摩の名に仮託した “達摩”の『易筋経』の著述が非常に多い。」ということなのです。
また「明代の周履靖が『赤鳳髄・食飲調護訣第十二』の中で“一年気をかえ、二年血をかえ、三年脈をかえ、四年肉をかえ、五年髄をかえ、六年筋をかえ、七年骨をかえ、八年髪をかえ、 九年形をかえ、即三万六千の真神(神は人の思惟活動や臓腑の精気の表れを含む、 生命活動現象の総称)みな身中にあり、 化して仙童となる” と述べている。」
とありますように、髄をかえ、筋をかえるという記述があるのです。
筋をかえるというのは易筋なのだそうです。
もっとも達磨大師については伝承が多くて、どこまで史実なのかは分かりません。
後の時代になって作られたものが多いのです。
しかし、こういうものは書籍を読むだけではどんなものなのか、分からないのです。
そこでこの易筋経や洗髄経をもとにしたボディワークをなさっている方がいるということを聞いて、是非一度教わってみようと思ったのでした。
そうして名古屋勉先生のことを知るようになりました。
名古屋勉先生は、一九六一年のお生まれですので、私よりも三歳年上であります。
もともとコンピューターのソフトウェアを作るお仕事をなさっていたそうなのですが。三年ほどその仕事をして、セブンイレブンで働いていたそうです。
その時、ストレスで身体を壊してしまったとのこと。
ストレスをどうやって解消したらいいのか、合気道や呼吸法を学んだりしたそうです。
合気道の道場に通っておられて、そこにかなり年配の方がいらっしゃったらしいのですが、力では全くかなわないという体験をされたらしいのです。
その方から、「気功や呼吸法をやりなさい」と言われて、いろいろ勉強されたと仰っていました。
そうして易筋経などを学ばれて、今はスポーツクラブなどで気功を教えていらっしゃるのです。
今回教わったことの要点は、伸びとつながるということでした。
動物は、なんどでも伸びをしているのです。
たしかに猫でも犬でもよく伸びをしています。
人間も赤ちゃんの頃は、けっこう伸びをしていたのですが、大人になるとあまりしなくなってしまいます。
そこで、今回まずそれぞれ思い思いに伸びをすることから始まりました。
そして姿勢であります。
タオルを持って、タオルで示してくださいました。
タオルは、普通もってもぐにゃっとして立つことはありません。
それをまず延ばしてそれからまっすぐにすると立つというのです。
実演をして下さいましたのでなるほどと拝見しました。
それから各自立つ姿勢をとったのですが、立つということは難しいのです。
何名かの者は、やはり反り腰気味で直されていました。
やはり姿勢は大事なのです。
正しくまっすぐに立つと、一番強いのです。
推されても動かない身体になるものです。
背筋が伸び、そして身体が繋がるという感覚であります。
それからやはり足の指でありました。
老化は足の指から始まると何度も仰っていました。
スワイショウと斜中禹正を実践しました。
スワイショウは、私も気功の先生から習ってやっていたのですが、また違った方法でありました。
単なる腕振り体操ではないのです。
私も今までスワイショウもずいぶん研究してきたつもりでしたが、また新たな発見でありました。
この名古屋先生から教わったスワイショウを、また都内のイス坐禅の会で実習してみたいと思いました。
斜中禹正もかすかな動きながら奥の深いものです。
名古屋先生は、とても親切で丁寧な方で、そのお人柄にも惹かれました。
はじめに皆に持参された資料を配るにも、渡して配ってもらうのではなく、一人一人の前に出向いて、よろしくお願いしますといって手渡しされていました。
いろんな話もさせてもらって、良い出会いでありました。
なかなか易筋経の細かな動きまでは覚えきれないのですが、日常の中で伸びをすることや、スワイショウや斜中禹正などを取り入れてゆこうと思ったのでした。
横田南嶺