禅と発酵 – 其の三 –
このタイトルの通り、発酵生活で新しい私に生まれ変わった栗生さんです。
十四歳から、体の不調に苦しまれ、二十年も苦しまれてきたのでした。
それが甘酒をいただいたことがご縁になって発酵生活を始められるようになり、健康な自分に生まれ変わったのでした。
その本の中に、こんなことが書かれています。
「例えば、家で発酵食づくりをすれば、家の中に菌が浮遊することになります。
発酵食づくりの過程で手で混ぜているときにも菌に触れることになり、すでにそこから菌と共存していることにもなります。
菌は食べて体内に入るだけではなく、皮膚や呼吸からも入ってきます。
酒蔵や味噌蔵、醤油蔵などでは、蔵に棲み着いている菌が味噌やお酒をつくっていきます。
蔵を衛生のために殺菌や滅菌をすると、生息していた菌がいなくなるので自然発酵食づくりはできなくなり、他から菌を入手して添加してつくることになってしまいます。」
というのです。
菌は食べて体内に入れるだけではなく、皮膚や呼吸からも入ってくるというのが興味深いのです。
禅にも通じるところもあるのです。
禅の書物を老師が講義するのを提唱と言います。
この提唱を拝聴するのは修行僧にとって楽しみなのですが、なにせ修行僧は睡眠時間が足りていませんので、眠くなってしまいます。
居眠りをしてしまうと、それを叱る老師と、大らかに見て下さる老師とに別れてきます。
厳しい老師は、眠っていると叱ります。
しかし、大らかな老師は、自分の提唱は耳から入るだけではなく、寝ていても毛穴から入っていくのだと仰っています。
これもちょうど菌のようだと思うのであります。
常在菌についても書かれています。
「おばあちゃんのお料理がおいしい理由」という章に、
「発酵食品は菌が発酵して、より良い味噌や醤油をつくり上げるのですが、じつは私たちは普通にしているだけでも、こうした菌に守られているのですね。
皮膚にしても、表面に常在菌があるから健康に保たれているのです。
よく味噌汁や漬け物など、そこの家独得の味のことを「おふくろの味」とかいいますが、そこの家の味になるということは、その家の空気中の菌、つくる人の菌も関係していると思います。
おにぎり、おいなり (いなり寿司)、にぎり寿司、ぼた餅、お団子………、おばあちゃんのお料理がおいしいのは、心をこめて“素手”でつくることによって、おばあちゃんの味が出るのでしょう。
工場の機械では出せない味です。
皮膚には常在菌がついているといいますが、じつは常在菌というのは皮膚から6~8㎝の範囲にもあるそうです。」
と書かれています。
手で握るおにぎりというのは、やはり格別の味わいがあるものです。
このことについても先だっての「禅と発酵」の企画の折に、控え室で寺坂さんと話をしていました。
今は衛生について厳しくなって、おにぎりでも手で握るにしても、ビニールてぶくろを着けることがありますが、これでは常在菌がはたらかなくなるように思います。
また修行道場でも時におにぎりをみんなで作って托鉢に出かけた折に食べることもありますが、手で握ったおにぎりはやはりおいしいと感じます。
更に栗生さんの言葉を紹介します。
「私の治療を振り返ってみると、腸を壊していたにもかかわらず、腸の薬は飲みませんでした。
腸にいいことをしたのは、自分が実践してきた発酵食品を摂ることだけだったように思います。
私たちの腸内には約100兆個、重さにして約1㎏の「腸内細菌」と呼ばれる多種多様な細菌が棲んでいます。
100兆個もの腸内細菌は複雑な微生物生態系を作っています。
この微生物生態系のことを「腸内フローラ」、または「腸内細菌叢」といいます。
腸内環境には善悪はないのですが、いちおう大きく区別すると、
善玉菌(有用菌)
悪玉菌(有害菌)
日和見菌
この3つが存在しています。
3つともそれぞれ役割があって、どれが欠けてもダメなのです。
善玉菌の代表は乳酸菌です。
悪玉菌の代表は大腸菌、ウェルシュ菌などです。
有害物質をつくり出して、腸内を腐敗させます。
日和見菌は、ふだんは人体にほとんど影響を与えませんが、その時その時で善玉、悪玉のどちらか優勢なほうにつきます。
みんな、悪玉菌をなくそう、なくそうとしていますが、善玉菌ばかりでもダメで、悪玉菌があってこそ善玉菌が生きるのであって、調和されていないといけないのです。
そのバランスが大切なんです。
抗生物質というのは、善玉菌も悪玉菌も日和見菌も全て抹殺してしまいます。
これらをなくすことが腸内の消毒みたいに考えられていて、その消毒役として抗生物質が使われるのです。
では抗生物質がただ悪いものかというと、必ずしもそうとはいえません。
救急の場合、たとえば交通事故や災害などで大ケガをして大手術をしなければならないときなどは、即効で効いて、炎症や化膿を止めてくれるので、ありがたい薬です。 その他、細菌に冒されたくないときなども予防薬として有効です。」
と書かれています。
腸の中はひとつの宇宙のようになっていると感じます。
腸の中はこの世界と同じように思うのです。
善玉、悪玉、日和見と、これはどんな組織にもあてはまる構成であります。
善玉ばかりでも駄目で、悪玉もあるから善玉が生きるというのも興味深いものです。
この世の中と同じように感じます。
それから
「糀が私の体にいいことがわかり、その次に気づいたのは味噌や醤油、納豆などの発酵食品がいいということでした。
もちろん添加物が入っていなくて、ちゃんとした製法で熟成させてつくったものであることは言うまでもありません。
現在は量産と製造コスト削減のために、人工的に発酵促進剤や醸造用乳酸など、さまざまな添加物を加えて短期間でつくった速醸の製品がたくさん出回っていますが、いくら味噌や醤油が発酵食品だから体にいいといっても、速醸のものだと同じような効果は期待できません。」
と書かれているところがあります。
これも先日控え室で寺坂さんと話したことですが、発酵食品が体に良いからと言っても市販の発酵食品と銘打っているもののすべてが良いとは限らないのです。
これは気をつけないといけません。
栗生さんは、
「私のように腸を壊した者は、何よりもまず腸内の細胞を良くする必要があるので、「細胞を修復するにはどうしたらいいか」という視点から考えます。
私がまずお勧めするのは、「基本調味料を本物に替えてください」ということです。
基本調味料を本物(時間をかけてじっくり熟成させた天然醸造のもの)に替えてもらうだけでも、発酵食品を日常的に体に取り入れることができます。」
とも書かれています。
良い物を食べると本当に体が喜ぶものです。
先日の「禅と発酵」の会に参加された方から、その翌日に
「最近腸が優れなかったのですが、昨日お昼を頂いた後から少しずつ良くなり始め、今朝は会場で購入したsawviの味噌でお味噌汁を作ったところ絶好調になりました。本当に生きている麹の絶大な力に驚いています。」
という言葉をいただきました。
腸内が調うと、自然と体も心も調ってくるものです。
横田南嶺