身体が変わると心も変わる
ヒモトレの小関勲先生にも講座を行ってもらいました。
昨年の九月以来ですので、久しぶりのヒモトレ講座でありました。
一本のヒモを身体に巻くだけで、身体が変化するのです。
小関先生は、「ヒモトレは、一本のヒモを使って、その人が持っている本来のバランスを取り戻すもの」だと仰っています。
武術研究家の甲野善紀先生も
「実勢にヒモを巻いたときの体の変化に驚き、「これはすごい」と感激したのを覚えています」と、小関先生の『ヒモトレ入門』(日貿出版社)の中で仰っています。
甲野先生は、『ヒモトレ入門』の中で、どのように実際にヒモトレを活用なさっているか、次のように書かれています。
「講習会ではよく、ヒモトレの効果を実感してもらうために、参加者の一人に前に出てもらって、実演に参加してもらいます。
まずその人に「小さく前へならえ」のポーズをしてもらい、正対した私が、その人の両腕に手を乗せて、体重を掛ける。
そのとき、腕の位置をなるべく保って私の体を支えてもらうようお願いするのですが、たいていの人は姿勢が崩れてしまいます。
ところが、へそ周りにヒモを巻いて同じことをやってもらうと、私が飛び上がって、相手の手の上に全体重を預けても、大して苦労もなく支えていられるので、体験された方はみな、大変驚きます。」というのであります。
この方法は私もよく活用させてもらっています。
今回は、脚ヒモを教わりました。
これは『健康体を手に入れるヒモトレ』には、
「両脚を閉じた状態で、後ろはお尻の下にヒモを合わせて、
前は太ももの位置にしてヒモを結びます。
次に前側のヒモを太ももから、脚の付け根(鼠蹊部)くらいまで引き上げる」と解説されています。
要はヒモをお尻の下からそけい部の高さに巻くのです。
だいだいヒモトレは、ゆったりと締め付けずに巻くのですが、この脚ヒモは、しっかり結ぶのが特徴なのです。
そうして、横になっている人を抱き起こすという動作を行ってみると、実に楽に起き上がらせるようになっています。
ヒモをはずすと、こんなに重いのかと改めて驚くのであります。
一本のヒモでこんなに体が変わるのであります。
またこの巻き方をして坐ると腰も立ちやすいのであります。
その日は午後から小関先生に韓氏意拳の講座を行ってもらいました。
これは分かりやすいヒモトレとは違い、実に難しいものです。
なにしろ韓氏意拳の特徴は、型がない、力を使わない、教えない、繰り返さない、リズムをとらない、イメージをしないというのです。
普通、どんな武術でもスポーツでも何らかの型があるものです。
力を使って行うものですし、指導者ないしは先輩から教えてもらうのです。
その教えてもらったことを繰り返し修練するものです。
リズムをとりながら行ったりします。
イメージをしながら訓練しています。
それらをすべてしないというのですから、想像し難いものです。
しかし普段と全く違った動きをすることによって本来の体とはどのようなものであったのか、参考になるものです。
それから西園美彌先生の講座も二ヶ月ぶりに行いました。
今回は、はじめて行う動きもあって、とても参考になりました。
拇指球、小指球、踵の足指三点を意識するのですが、それだけで体が変わるのであります。
三時間かけて丁寧に足指、足首をほぐして、股関節を正しい位置にはめて、調えてゆきました。
丹田から脚までしっかり繋がって、どっしりと立つことができるようになります。
足裏三点を意識するだけで体が変化するのには驚きました。
最後にみんなで少し坐禅をするのですが、調った体で坐ると短い時間でも実に充実するのです。
本当に体が調って坐ると、体がなくなったように感じるものです。
坐りたくなる、ずっと坐っていたくなる、そんな坐禅を目指して工夫を重ねています。
体が調えば、自然と呼吸が調いますし、心も変わるものです。
こういう講座を重ねると、修行僧達の坐った姿勢が全然変わってきます。
無理に坐れといってやらせるのではないのですが、自然と腰が立って、肩の力も抜けているのです。
講座の次の日の朝の坐禅などは、みな良い姿勢に変わっているのです。
修行僧にどんな感じがするか聞いてみても、体が軽くなった、肩の辺りが楽になった、坐りやすくなったという率直な感想がきかれます。
こういう工夫をせずに今までの指導方法に則った坐禅をしていると、一所懸命に行うと必ず腰を痛め、膝を痛めてしまいます。
腰を入れてと言われて腰を意識して坐ると必ずといっていいほど反り腰になってしまいます。
反り腰のままで良い姿勢だと思って続けていると、腰を痛めてしまうのです。
股関節が十分開かないのに無理に脚を組ませると膝を痛めてしまうのです。
坐禅の指導などは、もっと慎重にならないといけないと感じています。
今回西園先生に教わって改めて足裏三点を意識することの大切さを学んだのでした。
まさに、禅語にいう「看脚下」(脚下を看よ)なのであります。
それから、今回新たに手首を柔らかくする方法も教わりました。
パソコンなどの仕事の多い今は、手首をほぐすことは大切であります。
肩を調えることも教わりました。
西園先生のご指導の素晴らしいのは、その理論は理解できていなくても、その方法に則っていれは、体の方が自然と調ってくることなのです。
あたかもヒモを一本巻くことで身体が変わるのと同じようななのです。
そう考えると、頭よりも体が偉大だと思います。
その体を通して心も変わるのであります。
頭の思考や、理解を介さない、異なる道があるのです。
横田南嶺