マインドフルネスのよしあし
川野さんは、建長寺派の林香寺のご住職であり、RESM新横浜睡眠呼吸メディカルクリニックの副院長でもいらっしゃいます。
円覚寺でも何度も講座を開いてもらっています。
しかしながら、昨年は、開催できずにいて、今回は実に久しぶりの講座となりました。
お変わりなく、穏やかでお元気で明るくて、まず川野さんのお人柄から学ぶものもたくさんあります。
はじめに、グラウンディング瞑想というのを教わりました。
立ったままでも坐ってでもできるのですが、今回は坐ったままで行いました。
座布団に坐っている感覚に注意して、座布団に身体が沈みこむような気持ちで坐ります。
そしてへそ下三寸にある丹田から尾てい骨を通って一本の紐が伸びていって、その紐が地面の中に入っていって、地球の中心とギュッと結ばれていると思うのであります。
何かこの身体がどっしりと安定して、大地と繋がっている感覚が得られます。
この瞑想の特徴を教わりました。
この瞑想は「今ここに根差していることを体感する瞑想」であり、
「思考がさまよって一点に集中できない時にも有効」であること。
そして「立っていても、座っていてもおこなうことができる」ものであり、
「いつでも「自己の本分」に立ち返ることができると知る」、
「自然に触れる機会を持つとより深まりやすい」ということを学びました。
そもそもマインドフルネスとは、
「定義」は「今この瞬間の体験に注意を向け、 評価をせず、とらわれのない状態で観ること」であります。
「アウェアネス」という気づきと、「アクセプタンス」という受容があります。
「アウェアネス」とは「外から入ってくる情報と、 自らの内部から湧いてくる情報、 いずれにも自在に注意を向けられる状態に近づいてゆく」ものであり、
「アクセプタンス」とは「得られた情報に対し、 批判したり先入観で決めつけたりすることなく、ありのままに受け止められるようになる」ことであります。
マインドフルネスの基本である「呼吸瞑想」とはどのようなものかというと、
講座でいただいた資料によると、
「椅子の上でも、 床の上でもできる
背筋を伸ばして軽くあごを引く
手は膝かももの上に手のひらを上に
目を閉じて、呼吸に注意を向ける
呼吸を調節しようとしない
ありのままの呼吸にまかせ、 鼻からの空気の出入りや、お腹が膨らみ、しぼむのを感じる
雑念が浮かんでもよい。 そっと呼吸に注意を戻す
最初は30秒でもよい (時間を計らなくてもよい)
慣れれば5分、 10分と続ける」というものです。
こういう瞑想を行うことで、
心で起こる反応に対し、 一切の評価・判断を行わないこと
理性や知性によって考えることから、感じることを大事にして、「~する」という「Doing mode」から「あるがまま」という「Being mode」に変わるというのであります。
そういう瞑想を行うといろんな効能があるのであります。
11もの効能を教わりました。
① 集中力・注意力の強化
② 脳を休息させることによる回復効果
③ 判断力の向上 (SN強化による)
④ ストレス耐性の向上(海馬と扁桃体への影響)
⑤ 自律神経調整・睡眠改善
⑥ アクティベーション効果 (モメンタム)
⑦ クリエイティビティの増大 (EQの向上)
⑧ 対人関係の改善・協調関係の形成
⑨ リーダーシップ形成・チーム力向上
⑩ 疾病に対する治療効果 (医学的に実証)
⑪ 自己と他者に対するコンパッション (慈悲)の涵養(自利利他)が得られるというのであります。
ただこういう効能を説くのに対して、禅ではあまり効能を説きませんし、むしろ効能を求めることを嫌うので、性質が異なるように感じるかもしれません。
たしかにマインドフルネスは、ジョン・カバット・ジン氏によって弘まったものです。
ジョン・カバット・ジン先生は、マインドフルネスストレス低減法を確立されたのでした。
ジョン・カバット・ジン先生の『マインドフルネスストレス低減法』という書物が一九九〇年に出版され、マインドフルネスが世に知られるようになっていったのでした。
もともと痛みを軽減するのに有効だというので始められたのです。
それからうつ病の再発防止にも、薬を用いるのと同じくらいの効果もあるそうなのです。
川野さんは長年精神科医としても活躍されていて、マインドフルネスによって薬を減らすようにも務めていらっしゃいます。
この頃はそんな活動が弘まって、製薬会社からもマインドフルネスが認められるようになったのだと感慨深げにお話になっていました。
ただこの頃はマインドフルネスについてもさまざまな問題点も指摘されるようになっているとのことでした。
あまりにも効能ばかりを求めて、時には営利主義になることもあるそうです。
マインドフルネスでは、評価や価値判断を手放しますので、使い方を誤ると、非道徳的なことにも使われて問題になることもあります。
最後に、倫理観とマインドフルネスに関する研究という資料には考えさせられました。
倫理観が弱い人がマインドフルネスを行っても、執着から離れた状態にはなりにくいこともあるのだそうです。
また同じく倫理観が弱い人がマインドフルネスを行っても思いやりが欠如してしまうことになるのだというのです。
以前に大慧禅師の『宗門武庫』を学んでいた時に、高い悟りを得ていたのですが、品行がよくない、しかし、説法をなさるとすばらしいものだったという禅僧の話がありました。
そこにやはり仏教では戒を大切に説いていることの意義があろうかと思います。
戒という生活規範が土台となって、その上で禅定が培われて、智慧という正しい判断ができて、慈悲の行動に出ることができるようになるというのが、仏教の大切なところなのであります。
マインドフルネスも世の中に定着する共にも、いろんな問題点も指摘されるようになったのだと思いました。
久しぶりに、お元気な川野先生のご講義を拝聴して有り難い日でありました。
横田南嶺