若い人に学ぶ
それが今年三年ぶりに開催しました。
住職の研修会ですから、文字通り、お寺の和尚さん、副住職さんたちの勉強会であります。
例年ですと一泊二日で行っていましたが、今年は一日にしました。
そして、例年と大きく異なったのは、講師陣であります。
例年でありますと、六十代、七十代のベテランの和尚様か、あるいは会計士や弁護士の方などに講義をしてもらうのでありますが、今年は若い者に学ぼうと、三十代四十代の講師をお願いしました。
ひとつは、このコロナ禍にあって、ご高齢の方には頼みにくいということがあります。
そこで、今回私の発案で思い切って若い人に学ぼうという主旨にしたのでした。
講師は三名、そのうちの二人は三十代、一人が四十代なのであります。
私たち僧侶の世界では、若手なのであります。
今までの考えでありますと、三十代で講師を務めることはまずあり得なかったことでした。
しかし、「後生畏るべし」であります。
講師のうちの一人は、松本市の神宮寺の住職谷川光昭和尚であります。
谷川和尚は三十五歳、神宮寺の住職に就任したところであります。
谷川和尚には、神宮寺で行っている葬儀についてお話いただきました。
よく日本の仏教は、「葬式仏教」といって批判をされるのであります。
お釈迦様は葬式などしなかったのに、日本のお寺は葬儀しかしていないかのように批判をされることがあるものです。
決してお釈迦様は葬儀というものを否定したわけではないのですが、そのように受け取られることが多いのです。
仏弟子の葬儀などは行っているのだそうです。
しかしながら、葬儀はやはり大切な儀式であります。
結婚式も大事なものでありましょうが、私などのように中には行わずに一生終える者もいますが、葬儀というのは、必ず行うものであります。
しかも一度きりなのであります。
大切な人との別れであり、死について考える貴重な時でもあります。
葬儀には大きな力がある、納得のできる葬儀をしたいと谷川和尚は力強く仰っていました。
それには、今までのように葬儀社が行うのではなく、お寺が主体となって行うようにしているのであります。
心がけていることは、葬儀費用の明確化とひとりひとりのお葬式を作ることだというのです。
そのためにまず亡くなる前にお寺に相談してもらうそうです。
もっとも急に事故で亡くなったりしたときにはできませんが、多くのお檀家の方とは、前もって相談をしてもらうそうです。
そして亡くなったらすぐにお寺に連絡してもらうようにして、二十四時間受け付けているというのであります。
ご逝去の知らせが入ると、ご遺体を搬送することから始めるのだそうです。
それから枕経と打ち合わせを二時間ほどかけて行うとか。
更に故人がどのような方であったかを聞くのだそうです。
そして谷川和尚が、故人を偲ぶビデオ映像を作ります。
お一人お一人ほとんどお作りになるということでした。
この映像がとても好評なのだそうです。
ひとつ作られた例を拝見させてもらいましたが、故人の写真や言葉などが映像で流れて素晴らしいものであります。
その映像を作るのには二時間から三時間ほどかけて制作されるということでした。
これがひとりひとりのお葬式を作るということなのであります。
実に親切に行き届いています。
それから参列の方にもお経がわかるように解説書なども用意されているのです。
葬儀は布教の場であり、新たに死について考える場でもあるというのです。
昨今は葬儀の簡略化が進んでいます。
時には直葬といって、葬儀をせずに火葬してしまう場合もあるようです。
谷川和尚は、直葬は断ると断言されていました。
お亡くなりになっても二十四時間は火葬ができない決まりになっているので、どこかに一度安置しないといけません。
そこでお寺に安置してもらって、そこで話し合うのだと言っていました。
かつて花園大学の卒業式か入学式かに行っていた時に、大学の磯田学長と話をしていて、行事の大切さについて語り合ったことがありました。
磯田学長は、東京大学のご卒業でありますが、東大では一時期入学式、卒業式を行わなかったことがあるそうなのです。
しかし、やはり儀式を行うことが大切だといって行うようになったというのであります。
そして磯田文雄学長のご著書『教育行政』(ミネルヴァ書房)を頂戴しました。
その中に、
「各学校で実践されている音楽祭、文化祭、体育祭、さまざまな体験活動、特別活動、これらは秘儀化機能の回復という観点から見ても大いに教育的意義がある。」と書かれています。
儀式を通じて自分の価値を見いだしてゆくのだということでした。
そうような学校行事の大切さを説かれた上で学長は、人生の一番大事な儀式は葬儀であるのに、どうして昨今の葬儀簡略化に対して、僧侶があまり発言しないのかと言われたのでありました。
大いに反省したのでした。
やはり葬儀は大切であります。
谷川和尚のお話を聞いていると、私の葬儀も谷川和尚にお願いしたい気持ちになったのでした。
お若い方には大いに学ぶことがあるものです。
横田南嶺