心の休ませ方
今月の特集は、「心の休ませ方、励まし方 がんばっているあなたへ」という内容です。
『PHP』誌は、日本で最も発行部数の多い月刊誌であります。
私も、『PHP』には何度か登壇させてもらっています。
こういう特集を拝見すると、今は心が疲弊している人が多いのだなということが分かります。
この特集の中で、「専門家からのアドバイス」という一章があります。これにも私は出たことがありました。
今回は、作家で心理カウンセラーの宇佐美百合子先生がお書き下さっています。
タイトルが、「ボーッとする時間を持とう」というものです。
このタイトルに惹かれました。
私など、なにせこの「ボーッとしている」ことは得意なのであります。
ただ「ボーッとして」生きているだけだと言ってよろしいかと思います。
「ボーッと」してばかりで申し訳ないと思っていますが、この「ボーッとしている」ことも大事なのだと学ぶ事ができました。
宇佐美先生も、子どもの頃から「ボーッとして!」と叱られてばかりだったようです。
そこで「ボーッとして」いてはいけないものと思い込んで大人になったといいます。
ところが、先生は心の仕組みを研究するうちに、
「ボーッとする=思考を停止する」ことが心を休ませる最善の方法だとわかったというのであります。
頭の中でいろんな思考がグルグル回って止められなくなって、そのうちに夜も眠れなくなってしまうことにもなりかねません。
「取り留めのない思考に感情をかき乱されて、心が疲労している」ことになってしまうのだと指摘されています。
心は「緊張している」か「緩んでいる」かのどちらかだそうです。
緊張感や不快感があれば緊張し、くつろいでホッとすれば緩むのだといいます。
宇佐美先生は、「考えても答えの出ないときは、考えないほうがいいのです」と仰います。
「いったん、思考をストップして心の緊張を解き放つと、問題していたことが気にならなくなったり、思わぬ知恵がわいたりするものなのです」というのです。
思考が堂々巡りをしてしまわないように、「考え癖」から自由になるには、「心を今に置く」ことだと説かれています。
私が一番注目したのは、ここです。
宇佐美先生は、
「今をなおざりにして、すんだことをいつまでも気にしたり、起きてもいない先のことを心配してときを送るのは、じつにもったいなことと思います。
心を今に置けば、不安はたちまち消えるからです」
と仰せになっています。
まさに禅で説くところの、「即今只今」を生きるのです。
正受老人が説かれた「正念工夫(しょうねんくふう)」というのもまさにこの事であります。
只今の只になりきることです。
「只今の只に只乗れ 只の人」という言葉もあるほどです。
只今のことに只打ち込む、それが主人公であります。
そこから湧いてくるのが智慧です。
智慧というのは、あれこれ思考を巡らして出てくるものではなくて、只今に打ち込んでいてフッと湧いてくるものでありましょう。
「ボーッとしている」というのは、なにも余計なことを考えていないことであります。
ぼやっと考え事をしているのではありません。
そして只今の事に打ち込むことなのであります。
「世の中は 今よりほかは なかりけり
昨日は過ぎつ 明日は来たらず」
さて、この月刊誌『PHP』、来月の一月号から、私の連載が始まります。
連載といってもわずか一ページ400字ですが、書かせていただくことになっています。
横田南嶺