自己を探し求める
その間にお釈迦様の教えを聞いて弟子となったものは、六十人にも及びました。
弟子たちには、四方につかわして、この新しい教えを弘めさせ、お釈迦様もまた伝道の旅に出られたのでした。
その旅の途中で、お釈迦様がひとり森に入って、一樹のもとで瞑想しておられました。
そこに若者たちが、あわてふためいて森の中を右往左往していました。
お釈迦様が坐っておられるのを見て、
こっちに女が逃げてこなかったでしょうかと聞きました。
一緒に遊んでいた女性に、財物を盗られてしまって、その女を探しているというのでした。
そんないきさつを聞いたお釈迦様は、彼らに言いました。
「若者たちよ、君たちは、これをどう思うか、逃げた女を探し求めるのと、
おのれ自身を捜し求めることと、どっちが大事だろう」
と、我を忘れて遊び、我を忘れて女を探していた彼らは、そのお釈迦様の問いかけにハッと我に返りました。
「それは、もちろん自分を探し出すことの方がはるかに大切です」
と答えました。
お釈迦様の威厳あるお姿が、彼らをそのように言わしめたのでしょう。
そこでお釈迦様は、
「若者たちよ、ではそこに坐るがよい、わたしが、いま己自身を探しだすことを教えてあげよう」
といって、八つの正しい道を説かれたのでした。
自己を探すとは大事なことであります。
今のような時に自己を見失って右往左往してはどうにもなりません。
新刊本『真の自己を尋ねて 十牛図に学ぶ』ができあがりました。
今月末に、各書店に販売になる予定です。
これは致知出版社のセミナーで、主に経営者の方々に講義をしたものをまとめて一冊にした本です。
十牛図という漢文と画の描かれた書物ですが、一般の方向けに分かりやすく話をしたものです。
もう本を出すのはやめようと思いながらも、今年これで四冊目の出版であります。
横田南嶺